(2)

「あのさ……ボクも、こう云うのは好きじゃないんだけどね……」

 担任の福田は進路相談室で、ボソボソとそう言った。

 アメフトかラグビーの選手並にガタイがいいけど……いつも猫背。

 いつも声は小さく自信無さげ。

 顔には、いつも、わざとダサいの選んでんじゃないかと思いたくなるデザインの眼鏡。

「福田先生、まだですか?」

 進路相談室の外から、他の学年の先生の声。

「あ……あ……すいません……もう少し……」

 口調も動作も……いつも「ぬぼ〜」「のっそり」って感じだ。

 気が弱そうな口調だから、すまなそうな感じに聞こえるだけで、良く良く考えたら……誰かに謝ってない時でも、こんなしゃべり方だ。

「え……えっと、どこまで話したっけ? ああ、そうだ、中島なかじま君からも連絡が有ったと思うけど……補修への参加が任意だってのは……あれ……建前だから……」

「は……はぁ……」

「一応、ウチの学校は進学校なんで……いや、僕も、そういうの何か変だと思ってんだけど……あの……補修に出ない生徒を良く思わない先生も居るんで……あの……その……」

 福田(先生と付けた方がいいけど、どこか呼び捨てにしたくなる雰囲気の人なんで)と喧嘩になったら、多分、秒で俺が叩きのめされそうな位の体格差が有るのに……いつも、福田は生徒に対して弱気だ。

 福田は男女差別をしない。男の生徒にも、女の生徒にも、いつも弱気だ。

 福田は体育会系もオタク系も差別しない。どんなタイプの生徒に対しても、いつも弱気だ。

「え……えっとさ……そう云う先生が3年の時に担任になったら……内申書に何書かれるか判んないから……いや、そう云う先生は先生に向いてないと僕も思うけど……でも、そんな先生、この学校にゴロゴロ居るし……えっとっ……現実って嫌な事ばっかだね……はは……」

「は……はい……気を付けます」

「あ……池田君が悪いって訳じゃないけど……えっと……それなりに成績が良かったら、補修に出なくても、何も言われないと思うけど……」

 おい、ちょっと待って、福田の癖に、何を言うつもりだ?

「え……えっと……このまんまじゃ、志望校難しいと思うんで……もう少し、補修に出てくれないかな?」

 ……。

 …………。

 ……………………。

 思わず、「福田の癖に生意気だ」と口走りそうになった。

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