喫茶朔月堂へ、ようこそ

蜜蜂

プロローグ 黄昏に染まって

 黄昏時。西の空が茜の藍の見事なグラデーションをみせる頃、その喫茶店に灯りがともる。

 

 店のステンドグラスにも西日が差して、白い漆喰の壁が青や翠へと染まる。席はカウンターだけ。磨き込まれた胡桃色のカウンターの上には、アンティークのテーブルランプ。柔らかな橙の灯りが揺らめく。


 カウンターの中には1人の男性が立っている。年の頃は二十代半ば。琥珀の髪、透けるような白い肌、鳶色の目は、彼に異国の血が流れることをうかがわせる。


 店主である青年が磨いているのはティーカップではなく、月色に輝くムーンストーン。柔らかな白銀の表面にオーロラのような青の煌めきが揺蕩う。


 青年の背後にはガラス扉の食器棚。でも、そこに並ぶのは食器ではなく煌めく鉱石たち。


 パタン。


 磨いていたムーンストーンを仕舞うと青年はカウンターに座るもう1人の店員に声をかける。


「さて、今日はどんなお客さんが来るかな」


 ニャア。


 その言葉に艷やかな天鵞絨の毛をもつ黒猫はけだるそうに薄目をあける。

 そして一声だけ鳴き声をあげた。

 黒猫の金色の目が、月のように細く煌めいた。

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