学園の二大仙女が俺を振ったけど、その後なんか“変”わった?!

雪方ハヤ

始まりというきっかけ 起

 俺のことを『捨て犬』、『ゴミ』と呼んでいた学園の『二大仙女にだいせんじょ』は、最近“変”わっている。




「別れよ」


 俺の彼女の名は恋乃結佳こいのゆか、幼稚園で知り合った幼馴染だ、小学校、中学校、高校とずっと一緒だった。


 うちの学校の『二大仙女』と呼ばれるほどの美少女で、すっぴんでも雪に近い艶のある肌の色と、金系の髪と翠眼すいがんの組み合わせで、前髪はきちんと平行に揃えていて、美しいロングヘアーを持っている、家系も金持ちだ、大手の社長の娘である。


 俺の名は新田蒼にったあおい、ごく普通の高校一年で、目立った特技もなく、アニメで言う“モブキャラ”であるとわかっている。もう俺は彼女に相応しい男ではない。彼女は顔がいい人が好きで、『別れよ』と言ったのも明白なことだとわかっている。


「わかった……それ……返してくれない?」


 俺が指を刺したのは、彼女のカバンに付いている、桜色の陰陽いんようキーホルダーだった。

 そのキーホルダーは二つに分かれていて、併せば拳のサイズになる。

 水色と桜色があり、付き合った当初は一緒に買い、“付き合っている象徴”として彼女は桜色、俺は水色をずっとつけてきた。


「やだ」

「……え?」


 すると、彼女は悪いの笑みで俺を見下す“悪魔”のように言った。


「だってこれ売れば多少金になるでしょ?」


 俺はどうしようもなかった。なぜなら確かに当初の俺は『ゆかっちにあげるよ』って言ってしまったから、たとえそれは“付き合っている”という前提があるのにも関わらず、俺は一歩引いた。

 この人の家系に触れてはいけないからだ。


「去れ、カス」

「はい」


 俺は溢れそうになった瞳の何かを腕で拭き取り、すぐにその場から走って逃げた。



 しかし俺は“恋”が大好きなガキだ、気を引き締めて、『二大仙女』のもう一人、学園のザ・清楚っと言えるほど誰も一度は見たら心が舞い踊る、金髪に負けないほどの美しい瑠璃色の髪で、光沢感のある乳白色の肌をもち、エメラルドブルーがきらめく瞳の冬里咲奈ふゆさとさくなに告白する、その人の性格、家系、学力も恋乃には負けていない。



 俺と恋乃との付き合った年月にはかなわないが、結構昔から恋乃の親友であるらしい。

 恋乃や俺と冬里は同じクラス、だから告白はしやすい。


 もちろん勝算はない、しかし恋乃に振られて以降、俺は妙に“恥ずかしい感覚”を感じづらくなった、“これ以上に恥ずかしいことはない”ってやつか。


 数日後の休み時間、俺は勇気を持って、チャレンジャーのように友達とおしゃべりしている冬里に声をかけた。教室は人が多く、にぎやかで“青春”っぽい。


「好きです、付き合ってください」


 そう言ってしまった俺は、恋乃に振られたこと以上の恥を感じることになってしまう。


「君って……恋乃ちゃんに振られた『捨て犬』だっけ? そう聞いてたよ!」


「『捨て犬』……っ?」


 すると、周囲の人が不自然とこっちに向かって笑い始めた、俺はまるで動物園のモンキーみたいにどうしようもない。


「おいおい、咲奈ちゃん、『捨て犬』と付き合うの?」


 冬里の隣の友人が悪い笑みで俺を見下した、しかしそれよりも恐ろしいのが、冬里の不変の表情に、清楚系の女子には聞こえない圧倒的な帝王の邪悪感のある声。


「『ゴミ』だろ、こいつ」


「……は?」


 俺はほとんど自分にしか聞こえない声でささやいて、『ゴミ』のように冬里の前に“置いている”、一瞬無音となった空気は、後からの周りの人の“悪魔”の笑い声に潰される。


「ははっはっはーまじウケる、『ゴミ』だってよ!!」


 みんな“悪魔”だ、こんな学校はもう嫌だ、しかしこんな理由で『ゴミ』はこの学校から転校できない。

 嗚呼ああ、この俺でさえ、俺のことを『ゴミ』だと思い始めてしまった。


 この告白は恋乃には知らせなかったらしく、さすがに人徳じんとくは持っているようだ、じゃないときっとあの“悪魔”にも弄ばれてしまう。



 俺は気を引き締めて授業を受ける、ことなんてできなかった。


「トトトト……」


 なにかこの教室に向かって走ってくる足音がする。


「トトトト……」


「トトトト……」


 なにかが来る。


 すると、頑丈がんじょうなドアがなにかの衝撃により、突っ込まれてぶっ飛ばされ、パーン、という音が教室内に響き渡り、さらにドアの向こうに黒いマスクをした男性っぽい人からなにかの物を取り出した。


 男からの手の黒い物からさっきとは違うパーンという音が鳴り、気づいたら先生が倒れていて、気づいたらみんながパニックになってしまっていた。


「きゃーーー」


 女子からの響き声はすぐにその男に射殺されてしまった。「パーン」っと。


「今からお前らを人質になってもらう、すまないが、金が欲しいんだ」


 奴はなにかの情報を手に持っていて、あえてお金持ちの冬里と恋乃のクラスを突撃しているように見える。


 他のクラスの先生もこっちへ駆けつけたが、男はそれを認めなかった。


「こっちに来るんじゃない、警察呼べ、じゃないとこの可愛い生徒さんを射殺する」


 男から表情は見えない、顔を隠せる黒マスクを着ているからだ、奴の銃の先は恋乃結佳だった。そのすぐ隣に俺がいた。


 先生達はすぐに職員室へ駆けつけた、警察を呼ぶために。



「やだ……死にたくないよぉ……」

 恋乃の声は枯れていて、まるで水やりをしていなかった“花”のようだ。



「……誰か助けて……」

 冬里も絶望した声で囁いた、それもそう、恋乃も冬里も金持ちの家系、誰だってこんな簡単に死にたくない。


 恋乃も冬里も、クラスのみんなも、全員絶望した。しかし俺という“新田蒼”は、なんだか腹が立ってきた。別に銃口が向いているのは幼馴染の恋乃だからではなく。


「なんで俺も悲しい思いをしてんのに、お前は邪道を歩んでこいつらの上の立場に立とうとしてんだよ?」


 俺は脳に言いたかったことを思わず口に出してしまった、後悔はない、なぜなら“勝てる”、っと思い、醜く座っていた俺は立ち上がった。


「なんだぁ? 生意気野郎か? ヒーローごっこかぁ?」


 俺は“恋”に勝算はないが、殺し合いは勝算はある、なぜならもう”恐れること”はない、俺は先端が尖っている“製図用シャーペン”を2本取り出した。


 知る人ぞ知る、シャーペンの中でも特に先端が尖っている製図用シャーペンの一点集中攻撃は殺しに使うナイフよりも圧倒的に殺傷力が強い。意外とまじで舐めてはいけない殺傷力がある。


「バカか? シャーペンで銃に勝てるとでも思ってんのか? ギャグアニメじゃねぇんだよ!」


 すると、男は腕を上げ、銃を俺の方へ向こうとしたとき、俺は自分が出せる最大のスピードでシャーペンを刺そうとした。狙いは頭部。


「ぷあぁ!!」

 俺のシャーペンは先に奴の頭部に刺せた、相手は倒れそうに悲鳴をあげたが、パーンっという声が鳴り、俺の腕も熱い溶岩に刺されてしまった。


「なぜ……お前はそんな勇気を……っ!」

 男は倒れ、たまげたように俺の方へ聞いた。



 俺が刺した場所は顔面の右側だ、シャーペンが刺したときに手放してしまったため、どこに刺したかわからない、しかし男の顔面の右側は血塗れになっていた。

 しかし、俺が攻撃した右腕も弾丸に撃たれ、俺は右膝が地面につけ、左手で腕を抱えた。


「なんで、なぜだ!!?」


 男は無能になり、銃はさっきの乱闘で遠くに飛ばされた。ただ“俺”のように“吠える”ことしかできなかった。

 俺は男の質問に対して、少し考え、胸を張って男の方へ言った。



「守りたい人がいるんだ」



 今の言葉を耳に入った冬里と恋乃は同時に体がピクっと震えた。

 俺は怖がるものがなくなり、ただ死ぬ前にかっこいいことを言ってかっこつけたかっただけさ。


 すると、さっき職員室で警察を呼んだ先生はすぐにここに駆けつけ、奴を取り押さえた。


 警察が来たときには、やつはすでに諦めていた、情報によると、奴は元恋乃家の手下であり、重圧に耐えず辞職、それでお金持ちに腹が立ったらしい。


「よくやった……蒼!」


 先生の声がどんどんぼやけて聞こえなくなり、俺は眠ってしまった。別に死んだわけではない、ただ今日“色々”疲れただけ。


 眠る前に、俺は右にいた恋乃の表情が見えた、珍しく“俺のために”泣いている。いや、なにかがおかしい、なぜ泣くんだろう。


 彼女と目線が合ったため、俺はすぐに左の方に目をらした。そこには冬里が恋乃以上に号泣している姿が見えた、俺はあまりにも眠く、声が聞こえない。


 なんで冬里と恋乃は泣くんだろう。

 しかしこの事件以降、そいつらはなにかが“変”わった。

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