《┈第二部┈》プロローグ
《凛》
「この街は危ない!凛、逃げて!」
わたしは叫ぶように響く汐梨の声で,眠りから引き上げられる。
緊迫したその声に、心臓は、バクンバクンと鼓動する。意識は急激に覚醒し、わたしは体を起こした。彼女に尋ねる。
「汐梨,どうしたの?」
反射的に発せられたわたしの声に、汐梨は少し被せるように、再び「逃げて!」と叫んだ。
わたしは寝起きの頭で状況が飲み込めない。
ぼーっと一点を見つめていると、彼女は、訴えかけるような表情で口を開いた。
「お願いだから!凛、逃げて!美湖の家族を調べて…みこの苗字は,霧島、霧島美湖…!母親の名前は洋子…父親は…………」
ゆっくりとフェイドアウトするように、「父親は」の続きは聞き取れない。
それでも霧に包まれた彼女の口はパクパクと動き、何かを伝えようとしている。わたしはそれを聞き取ろうと、耳をすませるが、何も聞こえず、気付けば視界も闇に染まっていた。
取り戻された視界に次に映ったのは、わたしの部屋の天井だった。
ばくんばくんと心臓が波うつ。
緊迫感で胸が締め付けられ、息は荒い。
この街から逃げて、その言葉だけが耳に焼きついている。
キーンキーンと耳の奥から不快な音が響く。
これは耳鳴りだ。
とても不快で、頭は締め付けられるように痛む。
しばらくわたしはベッドに座り込み、押し寄せる痛みに、耐えていた。
痛みが少し収まると、わたしはやっとの思いで、体を起こす。
ベッドサイドに置かれたスマートフォンをとり、会社の電話番号を入れる。
プルルルル
しばらくの音の後、「はい」という上司の声が聞こえた。
わたしは、体調が悪いため休むことを伝えると、電話を切る。
再び布団に横になると、わたしは夢のことを思い出していた。
緊迫感のあるあの声を思い出すと、ばくんばくんと心臓が波打つ。
ふと調べてみようと思い立ち、傍にあるスマートフォンをとる。
そして、検索アプリを開くと、「浦町ニュータウン」と入力した。
一番上には、入居案内が出ていた。
スクロールするが、有力そうな情報はない。
ひとつ、浦町ニュータウンの詳細というサイトを見つけ、わたしはタップした。しかし、わたしの夢に関係することは出てこなかった。
「出てこない……」
わたしは呟く。そして次は、「浦町ニュータウン 逃げて」と検索をかける。
すると,あるオカルト掲示板がヒットした。
わたしはそのサイトをクリックし,スクロールしていく。
────私は一年前から3ヶ月ほど浦町ニュータウンに住んでいました。
友人が何人も、死者たちに憑依され,なくなりました。
ここに住んでいる人はお願いですから逃げてください。これ以上、犠牲者を増やしたくないんです────
という内容だった。わたしは少し疑わしく思い、サイトを閉じた。
しかし,逃げてという掲示板の言葉が夢の中の汐梨の言葉と重なり、脳裏に浮かぶ。
午後になると、耳鳴りがおさまったため、図書館で,美湖の家族について調べることにした.
夢に出てきた,汐梨の剣幕に,調べなくてはならないような気がする.
司書に,霧島家に関係する新聞があるかを聞くと,何枚かの新聞が渡された.
それは、明治のものから、最近のものまである。わたしが見つけたのは、最近のもので,日付は今月であった.
────山神岬で夫婦の遺体発見 一週間前の失踪届けに一致
一週間前に失踪届けが出されていた霧島靖志さん(45)と洋子さん(45)の遺体が、今日、山神岬付近で発見された。警察は、事件性の有無を含め、詳しい状況を調べている。
洋子───その名前は、夢で汐莉の言っていたものだ。聞こえなかった父親のなまえは靖志なのかもしれない。
新聞を見て,わたしは汐梨から聞いた話と照らし合わせ,彼らは美湖の両親だと確信した。
そして、その新聞を読み進めるのであった。
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