《┈第一部┈》過去編~1~
1、
時は大正末期────
低い山々が連なるこの地の木々は朽ち果て、忘れ去られたちのようだ。
低い山々の岩肌は鋭く、地獄の入口を思わせる恐ろしさだ。
枯れた木々の聳える村に、建つ古い家に、少女は────佳代子は両親と住んでいた。
庭の草木は、枯れ果て、ポッキリと折れ、セピア色に沈む。かつて立派だった門扉も倒れ、風化している。
窓も所々割れ、廃墟のようなその家に、佳代子が住んでいた。
家は明治時代、この当たりを担う、大財閥だったが、大正になる頃にはすっかり落ちぶれ、没落貴族と呼ばれるようになっていた。家はとても貧しく、修理する余裕もないため、窓は割れ、冬は凍えるほどに冷え込むが、両親は佳代子を愛していた。
生まれつき病弱だった彼女は、度々病に伏せる。
時には熱でうなされ、時には痛みにもがき、少しづつだが彼女の体は弱って行った。
寒さが佳代子の体力を削ぎとる。
本を読むことが佳代子の唯一の楽しみだ。
本を読んでいれば、現実から目を背けられ、楽しい世界に入れる、佳代子はそう思う。
時折、家からは苦悶の叫びが響く。
その声は恐ろしく、響いた。
叫び声の度、彼女は衰弱して行く。
十四歳になる頃には愛情を感じることすらできないまでに、衰弱していった。
叫び出したくなるような痛みの時でも、もう、叫ぶ体力すら残っていない。
ただただもがき、佳代子は家系の呪縛に縛られていた。唯一の楽しみだった読書をすることも出来ず、体に侵食されるように心も冷えて行った。
十五歳を迎えると、佳代子は街の病院、佰神台病院に入院した。
初め、両親は毎日病院に通っていたが、病院は遠く、1ヶ月経つ頃には週に一回来るか来ないかくらいになる。
そして佳代子は、さらなる孤独に支配された。
心も体も冷え切り、肌は青ざめてゆく。
ただ、刻々と時間が過ぎてゆく。
冷たい明かりが、部屋を照らす。
段々と、息が弱くなってゆく。
視界も、少しづつ闇に飲まれ、暗く染る。
ガラーッ
扉が開くと、両親が入ってきた。
少女の両親は泣きわめき、医師と看護師は何やら会話をしていた。
彼女の心は、冷えきっていた。
少しづつ、体が、冷えてゆく。
ズキズキと体が痛み、その痛みすらやがて姿を消す。
佳代子は、痛みにおおわれているように顔を歪めている。寝具より、真っ白な肌には血色がかんじられない。少女の息が弱々しくなっていく。
息をするのもままならず、苦しくて、顔を歪める。
そして、視界が闇に染った。
暗く染った視界は、佳代子の心を覆う、絶望と同じ色だ。
最期まで絶望が心を支配し、心臓の動きが止まるその時まで、苦しんだような、苦悶に満ちた表情で彼女は逝った。
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