1話

「ふんふん」

 嬌悠高校の二年生、真口甘味(かんみ)は、有線イヤホンで聞いている歌に合わせて鼻歌なんかを歌いながら一人帰り道にいた。先に行くにつれて暗い赤のグラデーションに染めた黒髪を二つに束ね、右目には眼帯をしている。剣道の防具袋と木刀を刺した竹刀袋を背負っていて、ほとんど見えてしまいそうなまで短くしたスカートからはすらりと細い脚が伸びていた。しばらく歩いていると、丁度曲がり角にある市民掲示板の正面の民家の前で、黒猫が八匹のカラスの集団に囲まれているのを見つけた。甘味は心臓がどきんと跳ねたのを感じ、焦って片方イヤホンを外した。

「え?え?あの子大丈夫?」

甘味が戸惑っていると猫が苦しげに甘味を見た。甘味はぐっと親指を握りしめた。

「__そうだよね、私が助けないと…」

甘味は覚悟を決めると、腕まくりをし、もう片方のイヤホンを外して首にイヤホンをかけると背中から木刀を引っ張り出し、構えると同時に突進し、もちろん猫には当たらないように力任せに木刀を振り回して暴れた。

「いやあああっ、失せろーー!!」

驚いたカラスたちは当然抵抗もせずに飛び去った。

「臆病者め……」

甘味が肩を上下させながら空高く飛んだカラスたちを睨みつけていると、猫がまるでお礼を言うように

「にゃあ」

と鳴いた。甘味はしゃがむと、

「怖かった?よしよし」

と艶があるその鈴みたいに小さい頭を優しくなでた。猫はとろけるはちみつのような目で甘味を見つめ返した。その猫は野良猫で、その民家に住むおばあさんに世話をしてもらっているのだった。甘味はすっと立ち上がり、木刀をしまうと猫に手を振り、

「君可愛いね。……それじゃ、じゃあね。気を付けるんだよ」

と一言いうと甘味は再びイヤホンをつけ、その場を去った。

(ネコチャンがお礼しに来たりして……。なんか能力とかくれたらいいのにな。なんだろ、"死者蘇生"とか?悪くないかも……)



数日後の帰り道、部活を終えた甘味は、チョコパイを片手に鼻歌を歌いながら掲示板をちらりと見て、また掲示板を見た。

(なんか萌え絵のポスターが貼ってあるんですけど……?なんで?……ん?これって……)

ポスターは室石守神社のもので、この神社はある界隈で有名な神社であった。コスプレのように丈が短い袴に大きなリボンと装飾のある巫女服が物珍しく、その巫女服目当てに観光客が国内外から来ている。もちろんその萌えキャラクターはその制服を着ていた。甘味は一度行ってみたいと思っていた神社で、当然その制服にも興味があった。そしてあわよくばその制服に袖を通してみたいとさえも思っていた。そしてなんとそのポスターはその室石守神社の求人情報だった。

「え、噓、求人?」

思わず驚きの声がついて出た。

(この間のネコチャンがくれた幸運……かな?だとしたらラッキーっ!……でもなんで正月でもないのに巫女の求人?読んでみよ)

甘味は掲示板のガラスに手を当てて体を支えながら、頬がくっつくまで顔を近づけ、求人を読んだ。

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【募集要項】

・期間 7月1日~

・時間 週1日 4時間~

・待遇 時給3000円~ 制服貸与、交通費支給

・採用条件 16~25歳の未婚の女子。 格闘技/武道の経験者であること。心身ともに健康で、体力、精神力ともに十分な者。

・備考 面接の応募は下に記載するQRコードの申し込みフォームから。面接合格者は説明会ののち適性診断を行う。

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甘味はぶつぶつと求人情報を読み上げた。

「"心身ともに健康で、体力、精神力ともに十分な者"、剣道やってるしいけるかな。時給……え、三千円っ?!しかも"から"?!やばーっ!!なにこれ最高じゃない?"アレ"も着れるってことだよね。___うん、やるしかない……!!」

甘味は掲示板から一歩離れると、大きな目をキラキラと輝かせた。甘味はゴテゴテの装飾付きの十字架のキーホルダーを付けたスマホをジャージのズボンのポケットから取り出し、もう一歩下がってポスターの全体の写真を撮り、チョコパイを齧ると再び鼻歌を歌いながら帰路についた。

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バイト巫女甘味の攻撃 うろ茶 @winter503

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