10 決意


 恥ずかしさを押し殺して聞いてみた。相手は戸惑っているように視線を彷徨わせている。暫くして返事をもらえた。


「えっと……うん。いいよ……?」


 きょ……許可が出た。


 タイチ君の気が変わってしまう前に、こっちからアクションを起こそうと決めた。幸い、今は私たちのほかに通行人がいない。


 自分からしたいのに何か間違ってしまったらどうしようとか、色々と考えてしまう。


「えっと……その……」


 彼へ向けた手をどうすべきか憂慮して口走る。もたもたと右往左往させていた手を掴まれた。問い詰められる。


「待って。未来でオレたちは夫婦だったんだろ? なら、もちろんキスやそれ以上の事もしたんだよな? 何でそんなに挙動不審なの?」


 思い出して少し気分が沈んだ。俯き視線から逃げた。重い口を動かす。


「した事ないよ」


「……え?」


「結婚式に一度キスした事があるだけで、ほかは何もないよ」


 自分が痛くて、誤魔化す為に微笑んだ。

 僅かに間があった後、言われた。


「結婚式のキス以外は初めてって事だよな? よかった。オレも、その…………上手くできなくても大目に見てな」


 ゆっくりと距離が縮む。


 かつて「もう二度とないだろうな」と諦めていた出来事が起こって思考が乱れた。瞳を伏せると思いが溢れて頬を伝った。


「ごめんね。こんな、泣くつもりじゃなかったのに。望みが叶ったみたいで凄く……感動してしまって。ごめん」


 止まらなくなって言い訳を口にする。腕を引かれた。抱きしめられて一時、息を止めた。


「こっちこそ……ごめんな」


 すぐ近くから聞こえてくる。もっと視界が滲んだ。

 タイチ君が悪い訳じゃない。分かっているんだ本当は。


 決意を伝える。


「私、あなたのハーレムに馴染めるよう頑張る。だから……傍にいさせてほしい」



 勘違いしちゃダメだよ。傷が深くなるから。


『分かっているのに。凄くつらいよ』


 心の奥で「彼女」の言葉が響いた。



 小学校に通っていた頃の……隣の席で笑っていたタイチ君が胸に浮かぶ。同じ物語が好きだったよね。ずっと好きだった。ずっと…………好きだったんだよ。



 タイチ君と結婚できた。ハーレムの愛人たちを差し置いて、ただ一人。それは私の唯一の希望であり呪いだった。


 結婚していなかったら、彼の事は忘れて次の恋へ進めたかもしれない。


 ――タイチ君は結婚相手に私を選んだ。


 何故なのか分からない。るりちゃんでも、ほかの誰でもない「私」を選んでくれた。


 奈落へ堕ちていく始まりだったのだとしても嬉しかった。






 それから数日後の夕方。自室で男の子と遊んでいる。相手はタイチ君じゃない。


 最近仲良くなった気がしている同じクラスのジン君だ。

 背が高くサラサラしたやや灰色っぽい髪が印象的なイケメンである。


 逆ハーレムに誘おうと考え、家に寄ってもらった。


 普段、無口なイメージのある彼は話してみるとそうでもなく……古くからの友人だったのかなと錯覚するくらい自然に打ち解けたように思う。


 一気に仲良くなっただけでなく、今日は更に深いステージに移行しようとしている。


 彼はイジワルな一面も見せてくれた。




「……出して」


 半ば拗ねつつ不満顔をジン君へ向ける。お願いした。

 彼はニヤリと目を細め、ふてぶてしい態度で言った。


「そっちが動いてくれないと出せない」


 要求に怯んだ。内心では焦っていた。目線を下に落として弱々しく口にする。


「い……嫌だよっ」


「ここ……開いてるよ? わざと?」


 指摘されてしまった。口ごもる。ジン君が動いた。私を導く如く示唆してくる。


「仕向けてんのはそっちの方じゃん。そんなに出してほしいの?」


 彼の指が核心の場所に触れ、息を呑んだ。



「…………やめいっ!」


 唐突に部屋のドアが開いた。兄の声が轟く。


「あ、お兄ちゃん」


「何やっとる貴様らぁ!」


 兄の剣幕に驚いた。目を大きくして窺う。何か怒ってる?

 疑問に思い首を傾げながら答えた。


「七並べだけど?」


「聞いてて何か……いや何でもない。とにかく二人だけで七並べはやめなさい」


 怒りが落ち着いたらしい。兄の声の勢いが普通に戻った。

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