9 表と裏


 休日中は色々あって忘れていたけど……。


 休み明けの放課後。タイチ君とるりちゃんに声を掛けられ、再び三人で下校するシチュエーションに陥った。休みの前の日にタイチ君にされた事を思い出して変に意識してしまう。


 校門を過ぎた辺りで前を歩いていたるりちゃんが更に前を行くタイチ君に近付いた。

 るりちゃんは見ているだけで幸せな気持ちになりそうな程に整った容姿の持ち主だと思う。


「えへへ」


 無邪気に笑っている声も可愛い。


 しかし。ボーッと眺めていた私の眼前で展開される光景に少なくない不快感が湧く。


 有ろう事か彼女は……タイチ君の腕にしがみ付いた。


「ちょ……っ! くっつくな!」


 タイチ君は嫌そうな物言いをしている。「本当に嫌なら振り解ける筈だ」と考えてしまうのは、きっと…………私の心が未熟だからだよね……?


 楽しげに笑うるりちゃんと焦っている様子のタイチ君……二人がベタベタしている今の方が、前の人生でされた仕打ちよりも遥かにマシな気がする。


 隠されていないから。


 奥歯を強く噛み締めた。純愛を信じていた自分を密かに笑う。哀れだなぁ。



「私……結構タイチ君の事、好きかもっ!」


 るりちゃんの発言にハッとして顔を上げた。


「えっ」


 タイチ君も驚いたようで、るりちゃんの方へ顔を向けている。

 直後、るりちゃんが小声でタイチ君に内緒話をし始めた。


 ああ。間に入る余地が見当たらない。完全に二人の世界が成立していて、私のここでの立場は恐らく……彼らの恋を引き立てる添え物なのかも。


 フフッ。


 知らず知らずの内に笑みが零れる。少し晴れ晴れした気持ちになって歩んだ。二人を追い越して先へ進む。


 同じ土俵にも立てなかった前時間軸の私よりも進歩したんじゃない?

 ここからだよ。私、頑張るから。振り向かせるから。



「ねぇ、玻璃ちゃんっ!」


 るりちゃんに呼ばれ振り向いた。


「タイチ君って、格好いいよねぇ?」


 聞かれたので答えた。


「うん。とても格好いいと思う」


 微笑んだままに言えた。


「とても素敵で優しくて可愛くてちょっとおっちょこちょいで私には計り知れないつらい過去を抱えていて、それなのに私とも向き合ってくれて」


 胸に溜まっていた想いを初めて外へ出せた。

 二人へ……特にるりちゃんへ眼差しを据える。


「だからタイチ君がつらい時に傍にいて支えてくれた人に凄く感謝しているの。私には勇気がなくて何もできなかった。手を伸ばす事もできなかった……から。今度こそ変わりたい。胸を張って好きって言えるように。るりちゃんみたいに可愛くて優しくて明るくて性格もいい素敵な女性になって、ハーレムの一員としての役割をしっかりと担えるようになりたい」


 言えた……!

 決意を直接、伝える事ができた。一息ついてドキドキと鳴る胸を押さえた。


 僅かに口を開いて私を見ていたるりちゃんが動いた。タイチ君へ耳打ちしている声が聞こえる。


「何この子。ツッコミたいところは色々あるけど。ちょーいい子じゃん」


 るりちゃんの表情がニマニマと崩れた。彼女はこっちを見つつ、横にいるタイチ君を肘でつついている。


 更に聞こえた。


「何か狙いがあって好きなフリしてるのかと思ったけど、タイチ君にベタ惚れじゃん?」


「えっ? 狙い……?」


 るりちゃんの話が鋭くて思わず反応してしまった。

 気まずい感覚が少なからずある。


「ごめんごめん。玻璃ちゃんが純粋にタイチ君を好きなのは十分に分かったよ。二人……末永くお幸せにねっ!」


 るりちゃんが走り出す。遠くからこちらへ大きく手を振ってくれた。私も手を振り返す。スキップしながら先に帰る彼女を呆然としたまま見送った。



 タイチ君と二人になった。帰途につく。

 細い坂道を上っている途中で話し掛けられた。


「なぁ。本当にほかに何も狙いないの?」


 後ろめたい気がして、すぐに答えられなかった。立ち止まる。タイチ君が確認してくる。


「あるんだな?」


「……」


「言って」


「……言いたくない」


「何で?」


 言葉に詰まって俯いた。


「……やっぱり。オレに好意があるって言うのも、その狙いの為?」


「そうだよ」


 言い切った。

 大丈夫。考えていた深くを、最後まで明かすつもりはないから。


 タイチ君は一瞬、怯んだように顔を強張らせた。「やっぱり、そうだよな」と笑っている彼に告げる。


「私は……自分の欲望を叶える為に動いている。タイチ君の事なんて一ミリも考えていない」


 返された眼差しに責められている心地がした。私も視線を逸らさず返した。


 先に相手が折れてくれた。タイチ君は瞳を伏せ溜め息をついた後で、渋々した感じの滲む声音を出した。


「玻璃の叶えたい事って何? オレにできる事があれば協力するよ」


 かつて夫だった人が優しい。込み上げるものがある。目頭が熱くなった。恐る恐る口にする。


「分不相応だって分かってる。でも」


 まっすぐに見据えた。


「タイチ君との赤ちゃんが欲しい。今の私じゃまだ全然あなた好みの女性になれていないから、到底無理なのは分かってる。るりちゃんやほかの子たちを見習って……私の事も好きになってもらえるように励むから……これから……その……誘惑してもいいかな?」

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