第5話 姫の面影
六条襟自宅の、リビングテーブルにてー。
チャポン……。
パシャパシャッ。
「いてっ。いててっ」
「はーい。動かないの!」
ぬるま湯の入ったおわんに浸かり、俺は襟に叱られながら、野良猫にやられた傷口を洗ってもらっていた。
「しかしあんた。私を守ってやるとか言ってたくせに、猫にも負けちゃうなんて……。妖怪退治なんてとても無理じゃない?」
「ぐっ……!」
襟に半目で呆れたように言われた言葉が、胸にぐっと突き刺さった。
「うっ、うっ。俺だってこんな姿じゃなければ猫なんかに負ける事ないんだ。本当の俺は強くて背が高くてカッコいいんだぞっ。お前なんかビックリしちゃうんだからなっ。あううっ」
非力な自分が情けなくて、大粒の涙を零すと、襟は言い聞かせるように呼びかけた。
「はいはい。分かったから、今は大人しく手当てを受けてね」
襟にペトペトと、俺の傷口に小さく切ったバンソーコーを貼られ、ちょっと気恥ずかしくなった。
「ぐすっ…。//お、お前、男は嫌いじゃないのか?何で手当てなんてしてくれるんだ??」
「うーん。それはそうなんだけど……。何だかあんたは(中身も含めて)小さい男の子みたいに見えちゃって。放って置けないのよね……」
「……!//」
フフッと優しく微笑む襟の姿に、一瞬姫の姿が重なり、ドキッとした。
姫も、俺がケガをしてくれると優しく手当てしてくれたものだったなぁ。と昔を懐かしく思っていると、襟は立ち上がった。
「さて、イタズラしないで、しばらくここで大人しくしててね。バンソーコー使い切っちゃったから、すぐそこの薬局で新しいの買ってくるわ」
「ね、猫は入って来ないか?」
「ぷっ。もう、ちゃんと戸締まりしておくから、大丈夫よ?お留守番よろしくね?」
ガクブルする俺に襟は吹き出すと、そう言い置いて手を振った。
✽
人形用のベッドに体を横たえ、おままごと用の食器に出してもらった菓子とコーラを堪能しながら、
「むぐむぐ……、たまごぽーろっていうこの菓子うまい!この飲み物もパチパチするが、癖になりそうだ。
あいつ、俺に好待遇して。このまま俺をペットみたく飼うつもりかな……? まぁ、それも悪くねーか。森崎武人の怨念は気になるが、この街には俺みたいな境遇の妖怪バスター=お伽童子が他にもいるって事だし、奴らに任せるかぁ……」
この快適な状況に、元々自堕落な生活を送っていた俺の闘志はすぐに萎え、霊界タブレットを取り出し、襟にねだろうと下界の菓子を調べ始めたところ……。
『ピピピピッ!!コノ付近100メートル以内二Eランクノ妖怪反応アリ!協力者ノ六条襟二危機ガ迫ッテイマス』
「…!!」
霊界タブレットの警報に俺は目を剥いたのだった……。
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