三話 色鉛筆

 私の先輩の話です。

 私は美術部に所属しているのですが、一つ上の先輩であるEさんは色鉛筆のみで仕上げる風景画で賞を受賞するほど絵が上手く、人柄も良くて相談事はもちろん困っている人がいたら真っ先に助けに行くようなヒーローみたいな人でした。そのため部活の顧問や後輩だけでなく、近隣の人からもからも慕われていました。

 それを裏付ける話として先輩はかなりの不幸体質らしく、何回か死にかけたとか山登りの際に遭難を何度も経験したとか、かなりの大事を雑談の一環で話してくれたことがありました。すると、その話を聞いていた後輩たちから心配の声が絶えず、偶然その場にいた顧問の先生も一緒になって心配するほどです。

 そんなある日の部活動の時、たまたま先輩が使っている色鉛筆を見た際に、青色の色鉛筆だけ他の物よりも明らかに短くなっているのに気づきました。先輩の絵には決まって綺麗な青空が描かれていたので、きっとそれで青色が他のより短いのだと思ったのです。先輩は三年生だったので引退の日が決まっていました、ちょうど引退する前の日が先輩の誕生日前日だったことも重なり、私は新しい青の色鉛筆をプレゼントしようと考えたのです。

 そして引退の前日である先輩の誕生日、こっそり他の部員にバレないように部室に呼んでリボンで飾りつけした色鉛筆をプレゼントしました。きっと先輩のことだから喜んでくれる。そう思っていたのですが次の瞬間、

「なにしてんだよ‼」

 突然らしくない大声を上げて一言そう怒鳴ると、私が用意した青鉛筆を奪うように取り、そのまま走って行ってしまいました。それ以来先輩は学校に来ることはありませんでした。

※これは私の妄想です。

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