下級武士と奴婢

猫渕 比加流

下級武士と奴婢

 冷えた空気の中、次右衛門は山の奥へ進む。姿勢を低くし、獲物を狩る獣のごとく静かに、そして素早く。

茂みの中に潜り、獲物が通るのを息を潜めて待つ。弓を構え、矢をつがえる。そして、茂みの向こうから、音がした、次右衛門は矢を放った。すると、「痛っ!」という声がした。「しまった……」

次右衛門は、思わず声を漏らす。人を射ってしまったのだ。次右衛門は茂みから出て、矢を放った人のもとへ向かう。そこには、脚を押さえて悶え苦しんでいる子供がいた。

「申し訳ないことをした……私は、どうしても……」と次右衛門は謝るが、子供は痛みに悶えながら、「助け……て……」と言う。

「分かった」と次右衛門は言うが、痛みは増すばかりだ。子供は「あ……」と言って、そのまま気を失った。このままでは死んでしまうかもしれないと思い、

次右衛門は子供を抱え、山小屋へと連れ帰る。

山小屋に着くと、次右衛門は子供を寝床に寝かせる。子供の脚を見ると、矢が刺さっている。矢を抜くと血が吹き出すので、そっと抜くことにした。

次右衛門は、子供の脚を布で縛って血を止める。そして、子供が目を覚ますのを待つことにした。しばらくすると、子供が目を覚ます。子供は脚の痛みに顔をしかめるが、何とか体を起こすことができたようだ。

次右衛門は子供に近づき、「大丈夫かな」と声をかける。子供は警戒しているようで、じっと次右衛門を見つめていたが、やがて口を開いた。

「あなたは誰ですか?」

「私は次右衛門だ、さっきはすまなかった」

子供は「僕は六太、さっき、山菜を採っていたんだ」

と言う。

次右衛門は「実はそなたを雉だと思ってしまって、本当にすまないことをした」と言い、六太の頭を撫でる。「ううん、大丈夫です。もう平気です」と六太は言う。

「そうか、良かった」次右衛門は安堵する。その時、六太の腹がグウと鳴り、次右衛門は思わず笑顔になる。「何か食べるものを持ってこよう」と次右衛門は言った。

次右衛門は台所で、干し肉と山菜の鍋を作り、六太に食べさせる。「おいしい!」と言って、六太は食べる。

次右衛門は、「この山は危険だから気をつけるんだぞ」と言うが、六太は「でも、僕は山菜を採りたいんです」と答える。

「なぜ、そんなに山菜が好きなのか」と次右衛門が聞くと、六太は「僕のお母さんにがっかりされたくないんだ」と答える。「お母さんを喜ばせたいんだ、そして、兄貴たちを見返してやるんだ」と六太は言った。

次右衛門は、「そうか……」と言って、六太の頭を撫でる。「頑張れよ」と次右衛門は言う。

数日後、次右衛門が家へ戻った。すると、家臣が「次右衛門様、一体どこへ行っていたのですか?」と尋ねる。

「少し、遠くへ……」

次右衛門がそう言うと、家臣は驚く。そして、「いつも、そんなことばっか仰って!もし何かあったらどうするんですか!?」と怒る。「申し訳ない」と次右衛門は謝り、「だが、私はまだやるべきことがある」と言う。

しかし、家臣は聞く耳を持たず、次右衛門を叱り続けるのだった。

数日後、次右衛門は山へ出かけた。「今回は猪でも狩ろう」と次右衛門は思い、山を歩く。すると、茂みの中で何か物音がするのが聞こえた。次右衛門は音の方へ近づく。すると、そこには六太がまたいた。

「また、山菜採りか?」と次右衛門が聞くと、六太は頷く。「お母さんに食べさせたいんだ」と言う。

次右衛門は「そうか」と言って、六太の頭を撫でる。すると、六太は笑うのだった。「そうだ、これ食うか?」と次右衛門は、干し肉を六太に差し出した。

「え、いいの?」と六太が聞くと、次右衛門は「いいぞ」と答える。六太は、「ありがとう」と言って、干し肉を食べる。そして「美味しい!」と言うのだった。

「そうか、良かった」と次右衛門は言い、微笑むのだった。「また、来るよ」と次右衛門が言うと、六太は「うん!」と言って手を振る。次右衛門はそれを見てから、山を去った。数日後、次右衛門はまた山へ出かけた。「今日も六太いるのだろうか…」と次右衛門は思い、山へ入る。しかし、六太は現れない。

次右衛門は、「今日はいないな……」と呟く。そして、「まあ、また来るさ」と次右衛門は言い、山を後にしたのだった。そして、次も、その次も、次右衛門は六太に会わなかった。「何かあったんだろうか……」と次右衛門は思い、山へ向かうが、やはりいない。やがて時は過ぎ、冬になった。「次右衛門様、今回の一揆を鎮めれば、出世ですよ!」と家臣が次右衛門に言った。

次右衛門は「そうか、みんなのためにも行くぞ」と言った。「皆の者私に続け!」と次右衛門が言うと、家臣たちは「おーー!!」と言って応える。そして、次右衛門たちは戦場へと向かった。馬に乗り、次右衛門たちは山を越える。その時、茂みの中から子供が出てきた。家臣の一人は「農民か?次右衛門様を守れ!」と言い、その子を切ってしまった。次右衛門は馬から降り、その人に近づいた。そして、顔を覗き込んだ。「六太……」と次右衛門は言った。「なぜ、ここにいるんだ」と。「山菜…たくさん…採れたから…あげ…る」と言う。次右衛門は、「そうか……また、すまないことをしてしまったな……」と言った。「大丈夫……もし山に来た時…僕を思い出し……て」と六太は言い、冷たくなっていった。次右衛門は、「そうか……また会えるといいな」と言って、六太を山の中に埋めた。そして、「みんな行くぞ」と言って、戦場へと赴いたのだった。そして、1年後、「次右衛門様、生まれましたよ」と家臣が次右衛門に言う。「そうか……男の子か」と言う。「名前どうしましょうか」と言った。そして、次右衛門は「……六太だ」と言った。

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