闇夜へ~呪禁のやしろ
如月幽吏
プロローグ
1
暗闇
暗闇
暗闇
希望など消え失せ、わたしの世界は暗闇に染る。
カチッ、カチッ、カチッ
時計の針の音だけが刻々と時を刻む。
室内か、屋外かすら分からない暗闇の中、時計の音で、おそらく室内だろうと推測する。
こんな状況でありながらも、わたしの心は意外と冷静だ。
暗く沈み、冷たい心。
希望の光など見えず、絶望の暗闇が覆う。
絶望感が胸を締め付ける。
暗く沈み、凍りつく心。
闇夜がわたしを飲み込んでいく。
心の海を、静寂が侵食するかのように、暗く凍えさせる。
重たい静寂がわたしの心をおしつぶす。
この地獄のような静けさからわたしは一刻も早く逃れたい。
でも、もう逃れられないことは知っている。
後は迫り来る死を待つだけだ。
永遠の暗闇を堕ちるわたしの鼓動だけがそこには響く。
そして、その鼓動すら消えた。
死を思わせる静けさが再び訪れる。
静寂がわたしの心を貪る。
ここは数分前、何も聞こえない暗闇であった。
しかし、いつの間にかすかな音がわたしの耳に届くようになっていた。
それは誰かの助けを求む声のような気がする。
それともわたしの心をかき乱すような声かもしれない。
そんな曖昧な声だ。
迫り来る絶叫に、恐怖が襲う。
わたしも次の瞬間には同じ叫び声を上げているのだろう……
逃げ場のない恐怖に、意識が遠のきそうだ。
次の瞬間。暗闇に飲み込まれていくような恐怖に襲われた。
ギャ―――――
今までの叫び声より、一際大きく聞こえたその叫びは自分のものであった。
怖い……怖い……怖い怖い怖い怖い
悲痛な叫びの木霊する暗闇でわたしは底へと落ちていく。
腹を抉られるような不快な落下の感覚がわたしを包む。
底が分からない恐怖もわたしを包んだ。
わたしは一体どこへ向かうのだろうか。そう、分かっている。でも信じたくなかった。わたしの行き着く先は、あの世だ。
漆黒の闇を裂くように凶悪な光が牙を剥く。
叫び
叫び
叫び
ぎゃーーとわたしの耳を
ギャー
次に聞こえた叫びは美明のものだ。
傍らでは美明が叫び、阿鼻叫喚の地獄へと落ちて行く。
周囲を見渡せば沢山の叫びの表情が目の中にに飛び込んでくる。
底の光の中から悲しくも恐ろしい歌声が聞こえる。
光を孕んだ人々は禁じられた悲歌を口ずさむ。
呪詛や憎しみの飛び交う阿鼻叫喚の地獄へ美明とわたしたちは堕ちて行った。
鮮血のカーテンが降りかかり、わたしは血染めの絵画の中に閉じ込められた。
死体が散乱し山積みの死体。
生きた屍と化した人々が、絶望の縁で
腐乱臭がたちこめ無数の死体が絵画のように散らばる。
そんな中、生存者たちは狂乱の宴を繰り広げる。
欄れた肉の香りは、死の讚美歌のように広がり人々は血塗られた大地で虚無へと躍り込む。
無数に広がる血溜まりは屍の叫びを反響させている。
光の中に見たものは地獄絵図そのものだ。
目の前に広がる地獄絵図へとわたしたちは落ちていく。
心の中には負の感情が溢れかえる。
ー辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い……
はっ…………
電灯が、梨花の顔を照らす。
辺りには見覚えのある家具が整然と並べられていた。
見渡すといつもの光景が広がっている。
梨花は夢を見ていたと気づいた。
堕ちて行く美明と自分の姿を想い出し背中に冷たい物が奔る。飛び起きた梨花の額には冷や汗が滲み、呼吸は荒くなる。
しかし、夢で感じていたような負の感情はリアルに思い出せない。
それでも梨花の心の底には夢の出来事が引っかかっていた。
じっとりと纏わり着く冷汗を拭って、着替えたあと、あることを思い出し、ベッドから立ち上がった。
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