第2話 痛み
ところで、僕が庶民であるからして、そんな僕の身内である
柑慈兄さんが未来のお
彼女のお父さまはビジネスの――ひいては人生の成功において、数学の能力に頗る重きを置いているとのこと。なので、
そんな類稀なる逸材を逃すまいと、さっそくお父さまは
だけど、驚愕はそこに留まらない。天は二物を与えず、なんて慣用句があるけど……あれは存外正しいのかしれない。と言うのも、柑慈兄さんはその天賦の才能――もちろん、兄さん自身の努力を否定するものではないけど――ともかく、その才能と引き換えに、というわけでもないけど……生まれた時から重い病を患っていた。まだ高校生の当時でさえ、あと十年は生きられないとされていた重い病を。
そして、そんな大病を治す手術を受けるためには、僕らのような一般家庭ではまず捻出できうるはずもない莫大な金額が必要だった。きっと、僕なんかが一生涯汗水垂らして働いたところで雀の涙程度にしかならないほどの、莫大な金額が。
随分と回りくどくなってしまったけど、婚約の件以上の驚愕というのはまさにこの件で――お父さまは、兄さんが婚約を承諾してくれるのなら、その途方もない費用を全て負担すると申し出て下さったのだ。お父さまにとってその金額がどれほどの
――ともあれ、これで兄さんの病気も無事快復。それまでは思い描くことすら叶わなかった今後数十年の兄の未来を繋いでくれたお父さまには、いくら感謝しても足りる気など全くしなくて。
――ただ、それでも懸念が全くないかと言えばそんなこともなくて。
「……ところで、お嬢さまは本当に良かったのですか? ああ、もちろん兄さんを否定してるわけではないですよ! ただ……婚約のお話は貴女でなくお父様がお決めになったことで……」
「……ふふっ、そんなに焦らなくても誤解なんてしないわ。貴方が
「……それなら、良いのですが」
一人で勝手に狼狽える僕に対し、可笑しそうな微笑みを浮かべ告げるお嬢さま。そう、いくらお父さまに感謝を抱いているといっても、当の婚約相手であるお嬢さまの心中を考慮しないわけにはいかない。兄さん自身、お父さまに深謝を伝えつつも、お嬢さまが抵抗を示すようなら
「――以前にも言ったと思うけれど、確かに話を持ち掛けたのはお父さまだけど、きちんと私の意向を尊重してくれたわ。決して、私の意に反して婚約させようなんてしなかった。だから、
「……それなら、本当に良かったです」
そう、柔和な微笑を浮かべ話す
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