第十四話


「……あの、倉岡さん。今からどこへ行くんですか?」


 どこへ向かっているか、全然わからない私。何となく不安になって、倉岡さんに聞いてみた。

 すると、倉岡さんは歩みをゆっくりと止める。


「え、倉岡さん?」


 下からチラッと覗き込んでそう呼ぶと、彼の顔はまた少し歪んだ気がした。


「どうしたんですか……ってわっ!?」


 後ろを振り向いた途端、倉岡さんが私の手を引く。

 突然バランスを崩した私はふらっと倉岡さんに向かって倒れ込んでしまった。


 そんな私を、倉岡さんが優しく大きな腕で受け止める。


 ――ってかこれ、抱きしめられてる? えっ?


「あの、倉岡さん……」

「大貴って、呼べよ」

「へ?」


 やっとの思いで倉岡さんの腕から顔を抜け出すと、バッチリと目が合った。


 その瞳は、どこか不満げなような色をはらんでいた。


「二人の時くらい、大貴って呼べよ。……つむぎ」

「っ!?!?」


 心臓がバクバクとうるさいくらいに音をたてている。

 抱きしめられているから、この鼓動まで伝わってしまっていると思うと恥ずかしい。


 ――大貴。

 声に出さず、口だけで呟いてみる。


 顔が熱くなってしまっているのは、気のせい……だよね?

 倉岡さんは私をじっと見つめる。


 何かを待つような、そんなで。


「……大貴、さんっ」

「なーに?」


 よくできました、とでもいうように笑う倉岡さ……違う。大貴、だ。


 余裕の笑みを浮かべているような彼が少しだけ恨めしい。少しだけ仕返しをしたくなってしまった。



 ……そうだ。


 良い考えを思いついた私は少しだけ背伸びをして、彼の耳元へと口を近づけた。



「ねぇ、大貴。……好きだよ」


「……っ!?!?」


 するとどうだか、すぐに私を抱きしめていた腕が緩んで行って。


 ふふん、と笑って大貴さんの顔をのぞき込もうとすると、彼が自分の顔を慌てて私から背ける。

 けれども、彼の耳はほんのりと赤く染まっている。


「ほら、いくぞ。行き先は着いてからのお楽しみだ」

「……はぁいっ」


 いつの間にか降っていた雪を、街の電灯が明るく照らす。

 ――まるで、私たちの幸せの道しるべを形作っていくように。


 きっと、今日は素敵な一日になる。


 ――だって、隣に彼がいるから。



 そんな確信を持ちながら、私は彼の大きな背中を追って行ったのであった。

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