俺だけレベルと同接がリンクしてる件~視聴者3人の雑魚配信者だった俺、たまたま助けたアイドルのおかげで同接とともにレベルが爆上がりしました……ってえぇ!?

やまたふ

第1話 はじまりは同接3人

 俺の名前は小森守(こもり・まもる)。


 家族は両親と一つ下の妹がいて、年齢は17歳。

 至って普通の高校生――。



 ……ではない。



 残念なことに、俺は長らく高校に通っていない。

 とある事情により、最後に登校したのはたしか2年以上前。かれこれ1年生の前半からずっと不登校を続けている。


 そう、俺はいわゆる“引きこもり”だ。


 一日のほぼ全時間を自室で過ごし、何をしているかと言えばスマホでネットやゲームをする毎日。

 自分で言うのもあれだが、すでに人生お先真っ暗である。


 ただ、そんな俺にも外出する機会が一つだけある。


 それが――である。


 始めたきっかけは単純明快。

 言うなれば、“自立”のためだ。


 この世にダンジョンと言う名の地下迷宮ができて20年以上。

 地上に存在しない未知のお宝にはもちろん、剣やスキルによる派手なアクションは映像映えしやすいという理由により、ダンジョン配信はすっかり世界規模の大人気コンテンツとなっていた。

 市場の規模は年々拡大を続け、噂では有名な配信者ともなると年収が数十億を超えるような人もいるとかいないとか。


 まさに今最も熱くて夢のある職業――それが“ダンジョン配信者”である。


 配信でたくさん稼げるようになれば、もはや学校になんて行かなくても生きていける。

 実家を出て一人暮らしだってできるし、両親にこれ以上迷惑をかけることも近所の視線を気にする必要もなくなる。


 それが当時の俺の考えたことだった。



 だが――。



「さてと、そろそろ始めますか」


 家族が寝静まった深夜。

 こっそり家を抜け出してやってきたダンジョン。


 俺はなけなしの貯金をはたいて買った配信ドローンを起動した。

 すると、そこには――。



 *――――――――――――*

   3人が待機しています

 *――――――――――――*



 ……そう、これが現実。


 同時接続数、わずか“3”。

 これが俺の最高、マックス……限界。


 だが、今にして思えばこの結果は始める前から簡単に予想できたことだった。


 というのも――。


「……“ステータスオープン”」



――――――――――――――――

名 前:小森 守

レベル:3


体 力:18/18

攻撃力:12

防御力:24

敏 捷:15

精 神:21

幸 運:27


スキル:

  【火炎】

――――――――――――――――



 いったい何の因果かダンジョンともに人類にもたらされた新しい概念――“ステータス”。


 その役割は言わずもがなゲームに出てくるのとほぼ同じ仕様で、理屈は不明だがある日突然こうして詠唱一つで開けるようになった。

 ただ、今ここで問題なのは「どうして急に見られるようになったの?」とかそんなことじゃない。


「『日本人の平均レベル、ついに500を超える』……か」


 スマホのニュースサイトのトップにあった見出し。

 その上で、俺はもう一度自分のステータスウィンドウに視線を戻した。



――――――――――――――――

 名 前:小森 守

 レベル:3

――――――――――――――――



「いや3て!!!!!!!!」


 叫び。


「いやいやいやおかしいだろ! 世間の平均が500なのに3!? おいおいバグかよ! こんなん派手なアクションはおろか、モンスターの1体も倒せないっての! これでどうやって面白い配信をしろってんだよ!!」


 ……とまあ、そういうわけである。


 ゆえにこんな俺の場合、せいぜい初級ダンジョンの低階層で植物や鉱石を採取するくらいが関の山。

 そんな地味な配信をいったい誰が見ると言うのか。


 ちなみに唯一目を引く要素として【火炎】のスキルがあるが、これも残念ながら別にすごくもなんともない。


 なぜなら、スキルの効果はレベルに比例するから。

 レベル3の俺が使う【火炎】なんて、炎どころかじんわり手が温まるくらいの効果しか得られない。要するにクソの役にも立たない。

 ちなみに、そのせいで俺の小学校でのあだ名は「ホッカイロ」だった。


「……ハァ」


 もうダメだ、心が折れそう……。


 きっと俺がこうしている間にも、同世代は受験勉強でもしているはず。

 しばらくすれば大学へ行き、卒業後は就職、やがて結婚して子どもも生まれ、その頃には出世して給料もアップ、車や家を買って……と言った感じで、どんどんと人生の階段を昇りつめていくのだろう。


 それこそ、俺には決して手の届かない遥か上まで……。


「……っと、ダメだダメだ。黙ってるとすぐ思考が暗くなる」


 これから配信なのにこんなテンションじゃお通夜まっしぐらだ。

 ただでさえ根が明るい性格というわけでもないのに。


「よし! いっちょ今日もがんばるぞ!」


 パチンと頬を叩いて気合を入れる。

 そして、俺は配信ドローンの開始ボタンを押した。


「あ、どうも~……。“引きこもり界の希望の星”こと、こもりんチャンネルのこもりんです。え~早速ですが、今日の配信ではポーションの材料として有名なヒーリング草の採取に来ました~……」


 精一杯振り絞った元気な声。

 しかし、いざ配信を始めても俺の気分は落ち込んだままだった。



 ――俺の人生、本当にこのままで大丈夫なのかな……?



 不安、焦り、孤独。

 そんなワードばかりが頭の中をグルグルと回り続ける。


 と、そうしてしばらく歩き進めたところで――。


「あ、分かれ道……」


 左右に分かれた二本の通路。


 片方はキラキラした鉱石で照らされた明るい道で、もう片方はこけの生えた暗い道。


「え~っと……」


 あれ? この場合、どっちに進むのがいいんだっけ?

 たしか、今日の目的はヒーリング草だから……。



@港区女子レベルMAX

 明るいし右がいいんじゃない?世の中キラキラしたものが正義よ


@限界ギャンブラーサトノ慶次

 迷ったら棒を倒して決めるとええで!人生ギャンブルや!


@スーパーブラコンこじらせガール

 たぶんですけど、左だと思います。ヒーリング草は暗さと湿気を好む特殊な草なので



 悩める俺の姿にすかさず流れた3つのコメント。

 アカウント設立当初から欠かさず配信に来てくれている古参メンバーたちによるものだ。


 しかし、残念なことに3人とも見事に意見はバラバラ。


 やれやれ、毎度のことながらどうしたものか……。

 それにしてもこの3人、毎回欠かさず来てくれるのは本当にありがたいけど、いったいどこで俺の配信を知ったんだろう?


 つーかいっつも思うけど全員漏れなくキャラ濃すぎだろ……。

 しかもそれぞれ港区女子にギャンブラーにブラコンって……見事なまでに俺の母さんや父さんや妹と性格も生き様も真逆だし。


 ……まあいいや。

 そんなことはさておき、問題はどっちの道に進むかなんだけど……。


 とりあえず、限界ギャンブラーさんの意見は論外だな。

 あとは港区女子さんも割と適当に言っている感がすごい。


 となると、ここはやっぱり……。


「……そうですね。じゃあとりあえずいったん左に行ってみましょうか」


 ブラコンさんの意見を採用した俺は、左の通路へと入る。

 俺はそこからまたしばらく道なりに進んだ。


 すると――。


「――うん、そうそう。でね、この通路をまっすぐ進んでいくと、もうすぐお目当ての――」


 ……ん?


 聞こえてきたのは、俺とは違うルートから近づいてくる女の子の声。

 ただ、足音が一つの割にその口調はまるで誰かと会話しているようだった。


 なるほど、どうやら向こうもソロで配信をしているらしい。

 俺は女の子のそばを飛ぶドローンを見てそう判断した。


 まあ、これについては長く配信を続けていれば別に珍しいことでもない。


 公共の施設などと違って、ダンジョンでの配信は誰でも自由。

 ならば自分の配信中に他の配信者と出会うことくらいある。


 ちなみにこういう場合、お互いの邪魔にならないよう最低限の挨拶や会釈だけで済ますのがマナー。

 だからいちいち大げさに反応すべきではない。


「え……!?」


 ……はずだったのだが、俺は思わず大きな声を出してしまった。


 なぜなら、そこにいたのは紛れもなく――。



「み、“ミカ”……!?」



 あの超有名アイドル配信者の“ミカ”だったからだ。

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