第2話
少女は、春休みが終わって新学期初日だから、という訳ではない気の重たさを拭い去るように、桜の木に声をかけた。
「おはよう」
もちろん返事などない。
それでも少女は薄く微笑むと、ゆっくりと額を離してその大きく広がる枝を見上げた。
「行ってきます」
そう呟けば、桜ははらりとひとひらの花弁を落とし、今度はまるで返事を返したようだった。
少女は唯一の友達への挨拶を終えて、歩き出した。
今日も気は進まないが、学校へ行かなくてはいけない。
長い石段を降りて、更に緩く続く坂道を下っていく。
坂を降りきればもう学校だった。
「…よし」
校門の前で一度立ち止まり、小さな声で気合を入れてから中へ入った。
周りには友人同士連れ立って歩く者たちや、朝練が終わり急いで更衣室へと向かう運動部の者たちが、騒がしく教室へと歩いていく。
至ることろで朝の挨拶が交わされ、笑い声や雑談が飛び交っているが、こちらに向けられることはなかった。
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