一、召喚されたのは、悪魔

第1話

都心の、それもほぼ中心部ともいえる場所にある、古い神社にいつも通りの朝がやってくる。


大通りを一本逸れた通りに面した、長い石段を登った先にあるお社は、それほど大きくはないが見る人が見れば格式の高さを感じさせた。


境内には歴史ある物が多くあるが、そこから見下ろす街には高層ビルやマンション、雑居ビルに幹線道路と近代的な景色が広がっている。


朝の出勤や通勤に忙しなく行き交う人々の姿はここからは見えないが、次々に走りゆく電車や車の多さを見れば安易に想像できた。


朝の喧騒にざわめく街並みを一望できるここは、まるで別世界の様に穏やかな朝を迎えている。




境内の端にある銀杏の木から、小鳥が飛び立った。


それとほぼ同時に、神社の脇に立つ住居と思しき建物から、深緑色の制服に身を包んだ少女が物憂げな表情を湛えて出てきた。




引違いの玄関ドアを静かに閉めて境内の奥へと歩き出す。


少女は居候しているこの神社の境内の一番奥にある、一際大きな桜の木の前までやってくると、おもむろにその幹へ額を付けた。




新年度になって初めての登校となる日だったが、今年は開花が遅かったためまだ二分咲き程度だ。


弾けそうなほど膨らんだ蕾たちは、あと数日の内に訪れる満開の日を今か今かと待ちながら朝日を浴びている。

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