第2話

この星の、広い広い海の中の、ほんの僅かなその場所に、


海に暮らす生き物たちが海の臍、あるいは楽園と呼ぶ海域があった。




そこは常に温暖な気候を保ち、四季もなく、自然の恵みの豊かな場所で、多種多様な生き物たちが暮らしていた。




色鮮やかな珊瑚やイソギンチャクが彩る海底は何段階かの深さに変化し、海面近くから深海付近まで続いていて、

その水の色は海面側の空色から、より深い海底へ向かうにつれて夜色へと美しいグラデーションを見せていた。




透明度は、遥か遠くの小さな魚まではっきりと見えるほど。


魚たちはあらゆる方向に踊るように泳ぎ回り、海面からの光を反射してきらきらと煌めいていた。




そんな場所の、やや深めの位置に繁る珊瑚の影に、大きなシャコガイがあった。


すでに貝の中身はおらず、大きく口を開けたその中には別のものがいた。




その白い二枚貝の中で、寝息をたてるのは一匹の人魚。


緩く編んだ、ヒメアマエビの色に似た透き通るような紅みがかった長い髪を、細い腰の上に漂わせて眠っていた。




幸せそうな表情で眠る彼女の顔の上に、一匹のアオウミウシがいた。


アオウミウシはゆっくりとした動きで、縦横無尽に動き回っている。


彼はなんとしても、彼女を起こさなければならなかった。




しかし、もう半日も前からこうして頑張っているにも関わらず、人魚は起きない。


それでも諦めることなく、ひたすらに這い続けていた。

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