No title -Beast human V-
キオク
嵐のあと
(冬眠と存在理由)
ピェールは竿を背負い
村へ帰る道すがら、
Vとばったり顔を合わせた。
ピェールは指を走らせる。
「よお、どうした?」
Vは指で返答。
(ピェールの様子見に来た)
「見事にボウズだよ。これから畑に行くところさ」
(今朝焚き火しながら見張ってたら、
でっかい生き物見た)
「それ熊じゃねえの? というか
顔色悪いぜ」
(えっ?)
Vは、自分の頬を右手で撫ぜた。
感触で皮膚の表面に凹凸感があるのに気付いた。
(何だコレ···)
「目つきも変だぞ。···ドクターに
診てもらえよ」
(そうするよ)
Vは、湖面を覗き顔を映してみた。
瞳の奥に大きな熊が居座っていた。
思わず振り返る。
ピェールは行ってしまった。
Vはただ一人、湖畔に取り残された。
シドの所へ行かないと···。
よたよたと村の集落へ引き返して
行った。
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(最後から二番目の人間)
シドは、ベッドから起き顔を井戸から
汲み上げた水で清めた。
そして部屋の祭壇に向かい
いつものように祈祷を始めた。
シドはこの村で人々の未来を占い、
過去を戒め光へ導く職に就いている。
先祖代々続く占い師一族の末裔である。
シド自身は独り身で、このまま
妻を娶らなければ一族の血は
途絶えてしまう。
みなしごのVは、
以前シドに養子に来ないかと持ちかけられたことがあった。
が、Vは自由を愛しているのでそれを
断った。
水晶玉に手を翳し、それを毎日続け一生を終える生活が向いていないことを
彼は本能的に理解していた。
そこへVが訪ねた。
「来てたのか···気付かなかったよ」
背を向けたままシドが声をかける。
(ああ。今朝、妙なことがあったんだ)
そこでシドがVに向き直る。
「そうらしいな。死相が出ているぞ」
(やめてくれ)
「相当顔つきが変わったな。まるで
獣みたいだぞ」
(それはジョークかい? )
「いやジョークじゃない。
熊そっくりだ」
No title -Beast human V- キオク @tayumukioku
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