第28話 ドリル
「つまり何? 魔界って、全く別の異世界ってこと?」
「そういうことじゃないんだけど、元々は地上にあった北の大陸が一万年前の神々の戦争によって海中に没してしまい、その一部を天空大陸によって蓋をすることで、こんな世界になってしまった、と。北の大陸は魔族の発祥の地なので、魔界と呼ばれているのです」
「え、でもそれだけだったら。他に大陸とか存在しないよね?」
「水没し天井ができた後、創造神が魔族を哀れに思って、地下の世界のスケールにあった空を作り、太陽を浮かべ、月を掲げて、昼と夜を創造したと言われてるけど」
ん? どうして月を掲げる?
「あの空は」
黒狼は空を指さして言った。
「地上の空をそのまま写しこんでいるの。太陽は本当にあるけど、月は地上世界のさらに向こう側にある3連の月を映し出してる。そういうこと」
地下数キロにあるということで、もちろん降りて行く時間もそれなりにかかる。
とはいってもこちらの重力制御技術は地球のそれとは段違いに進歩していて、上昇したり加工したりということに対して全く重力を感じることがない。
ある意味地球の文明よりも、異世界の方が進んでいる、とは皮肉めいたものだと改めて洋子は思った。
降りている間、エレベーターの外壁は透明なものへと変わり、円筒形の物体の内側から、地下世界の全てを眺めることができる。
この世のどこにもないすばらしい展望台。
動く展望台だけど。
富士山の山頂から地上世界を見下ろしているような気分になる。
リンシャウッドに富士山って言っても、通じないだろうな……それに、標高も数倍差があるし。
エレベーターは魔界の地上にまではいかず、その半分ほどにある、浮遊島へとたどり着いた。
地上世界にも空をフワフワと漂っている天空大陸のようなものは見えたけど、それのミニチュア版がここにもあるとは思わなかった洋子は、「へえ」と 好奇心に満ちた声を上げた。
「ここは地上世界とは魔界のちょうど中間にあるので、お互いがそれぞれ中立地帯に指定している場所なんです。それぞれの世界の技術を集めて作られたのが、人工女神」
「そういえば人工女神、人工女神って言ってるけど、正式名称とかないの?」
「ありますよ。人工女神アミュエラ、が 彼女の正式名称です」
「……まんまじゃん」
都合の悪いことはスルーすることにしているらしい。
黒狼は獣耳の片方だけをそうね、と言いたそうに倒して見せた。
持ち物検査を受け、携行している武器の類はすべて受付で預けることになってしまったので、背負ってきた聖槌オリビオルを肩から外し、係員に渡そうとしてちょっと待てよ、と思い直す。
「これ私が持つにはいいんですけど。聖なる武器らしいので、もしかしたら他の人には持てないかも?」
「はっはっはっ。巨人族の末裔である俺に持てない武器があるって言うのは面白い話だなお嬢ちゃん」
阿修羅のように六本の腕を持つ、頭だけは一つの巨人族の末裔だと名乗る警備員のおじさんが、あまりに自信があるように言うものだから、洋子はそれならばと気軽に聖槌を彼に渡してしまう。
そしたら結果は惨憺たるもので。
「うおおおおっ!」
「あーあ、やっぱり言わこっちゃない」
巨人族の警備員さんは、あまりにも重すぎるハンマーを支えきれず、取り廊下に落としてしまった。
ガガガンっ、と鋭い衝撃音がして、床がへこむ。
大理石のパネルが粉々に割れ、あたりに散乱してしまった。
これ修理費用いくらかかるんだろう。
「いいよいいよ、大丈夫。持てなかった俺の責任だから」
「そういう問題じゃないと思うんですけど?」
こっちで処理しておくから気にするな。
そう言われて入館許可証を発行してもらい、首からかけるストラップ付きのパスカードのようなものに納められたそれが手渡される。
来館者のストラップの色は赤で、館内で勤務している人びとのそれは青だった。
「行き先とか分かりますから後はいいですよ」
「気をつけてな」
「本当にあれでよかったの?」
気楽に見送られて、困って黒狼に尋ねたら何言ってるんだこいつ、みたいな顔をされた。
「修復魔法というものがあるのを忘れた?」
「あー……。まだこの世界に来て三日目なもんですいません」
「まず確認して。自分の記憶と照らし合わせて、それでわからんかったら聞くようにしようね?」
はい、先生。
黒狼はさっきのしっぽの件で苛立っているのか、どことなく冷たかった。
リンシャウッドの案内でたどり着いたのは、そこから歩いて二十分ほどの更に地下に降りた建物の宙階層だった。
この建物は、ど真ん中ががらんどうになっていて、そこに人工女神アミュエラが浮かんでいる構造らしい。
地下から地上まで、全体を覆うように建築物があるものの、それは単なる管理をするための外側に過ぎないのだ。
黒狼はそう説明してくれた。
「あーすげ……。すっごい、デカい」
「失礼な物言いしないでよ」
一応、神格を持つ神様なのだから。その端くれにいるのだから、敬意を示せ。そう言いたいのだろう。
リンシャウッドの尾は不機嫌に揺れていた。
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