第14話 女神の真意
シオンライナは洋子の前髪を左右に分け、サイドの髪をある程度束ねて、編んでは頭の後ろで束ねていく。
後ろの髪もまた緩やかに一つにまとめられて、根元を藍色のリボンで結んで完成。
足元は瞳の色と同じ真紅のパンプスが用意された。
シオンライナは昨夜と同じように銀髪をポニーテールにすると、洋子と同じデザインのワンピースドレスに身を包んだ。
その上からまたお揃いのローブを羽織る。リンシャウッドも同じものを着ていた。
それは緑地に金糸で裾が装飾されたシンプルだが、一目で身分の高い人間が着るものだとわかる品物だ。
魔導妖精たちが三人の周囲を、透明な翼を広げて飛びまわり、とてもよくお似合いです、と褒めていた。
洋子はついつい、自分がもらった身体の美しさに鼻を高くしたくなる。
もし、我が子が産まれたら、可愛すぎてとことん着飾ってしまう、甘い母親になる様な気がした。
「女神様が許可されたら、街に買いにいきましょうね」
「ヨーコは真名が貰えるかも」
「マナ?」
「真実の名前。それ自体が力を持つ言葉です。魂の名前とも言われています」
「みんなあるの?」
その問いに、シオンライナとリンシャウッドは顔を見合わせて笑っていた。
「いま名乗っていますよ」
「知らなかった」
では、自分の洋子という名前は、真名ではないのだろうか?
それともこの世界に転生したときに、それは新しいものに上書きされてしまったのだろうか。
未知の不安がそこには存在した。
いざ、出かけることになり、それまで滞在していた部屋を後にする。
扉をくぐると、向こう側は大理石の壁に囲まれた無骨な塔の内側で、廊下をしばし歩くと、塔の内側に出た。
塔は中央部分が吹き抜けになっていて、高さは二十階ほど。外縁部に部屋がそれぞれある作りで、まるで円筒形のタワーマンションのようだった。
真ん中にエレベーターが二台あり、それで二階下まで降りた。
エレベーターを出ると、そこには左右に長く続く道がある。床にはふかふかの真っ赤なベルベットの絨毯が敷かれていて、踏み込んだら跳ね返されそうだった。
「左側が西の王宮。右側が東の神殿です」
「こんなに近くにあるんだ……」
170近いシオン、150前後の黒狼、そして同じ体格の洋子。
三人が並んで歩いても、廊下は幅広くまだまだ余裕がある。
目視で幅十メートルはあるんじゃないか、と思う程、塔は巨大だった。
一体、ここだけで何人住んでいるのだろうか、と訊ねたら「千人はいる」とリンシャウッドが応えた。
王宮はもちろん、神殿や行政機関の窓口がすべてこの城のなかにあり、そこで働く人々はその大半がここで暮らしているのだという。
こんな塔は他に三つあって、それぞれ貴族や王族、各国大使館の関係者が住んでいるのだと教えてくれた。
もしかして、とシオンライナとリンシャウッドの肩に載っている魔導妖精を見て、洋子は歩きながら疑問を口にする。
手を繋いでくれているシオンライナの手をくいくい、と引いてみた。
「なんですか?」
「……ラフィネ様ももしかして……人工女神?」
ふふっ、とくノ一は予想外の質問に笑顔をほころばせる。
違いますよ、そう言ってここからは見えない天空を指差した。
「神々は昨夜見たでしょう? 三連の月の、赤い月に住んでいます」
「つまり、人格神?」
「人間の形をもっていたり、固有の知性と意志があって、独立した個体的存在として生きている神様のこと」
「それはラフィネに確認してみたらどうでしょうか?」
くノ一は困ったようにそう言った。
* * * * *
「違う」
明確に否定された。
「人間の常識で、神を推し量ろうとか。浅慮にもほどがある」
鼻先で笑われて、小ばかにされた。
まるでリンシャウッドみたいだ。初めて会う本物の神様を前にして、洋子は不遜にもそう思ってしまった。
「も、申し訳ございません」
「別に」
女神様にもツンデレがあるのだろうか。
あれから歩くこと十数分。長い廊下を抜け、別の塔がまるまるそれとなっている神殿の最上階にエレベーターであがって、ようやく面談が叶う。
屋上に作られた人工とは思えない自然の豊かな庭園は、原生林のようにうっそうとしていて、しかし、神秘的な空気に包まれていた。
入り口から出てすぐにある木造の天井つきのバルコニーで座って待っていたら、いつの間にか上座に一人の少女がいた。
どこからどうやって出現したのかまったく理解できないまま、肉体が理性を離れて、深々とお辞儀をする。
それは生まれながらに身についた、神に対する礼拝だった。
「ラフィネ様です」
「はい……」
そっと囁かれて、小さくコクンとうなづく。
ラフィネはシオンライナと同じか、もう少し低いくらいの、160あるかないかの美少女だった。
亜麻色の髪、燃えるような緑の瞳。
すこしばかり褐色の肌は、この南国の雰囲気にぴったりだ。
アーモンドのような瞳をこちらに向けられて、目力のあまりの強さに、洋子はじっと視線を合わせていられない。
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