三世代ギルド運営〜僕と従姉とそのお母さんとそのお義母さんとで冒険者を支えます~
@kamulo
1 ギルドを運営しています
1-1
「ギルド」というモノがある。
冒険者がこぞって集まり、パーティを組んで、魔物を倒すクエストを受ける。
実績を上げればより高難易度のクエストが受けられる。
そうして力、富、名声を手に入れ、いわゆる「勇者パーティ」を目指す。
ギルドはそういう可能性を輩出する場所。
ただそのためにギルド運営に問題があってはいけない。
一部のパーティをひいきする、クエスト報酬が不十分、資金繰りが滞る……
そんなことでは勇者を生み出すどころじゃない。
冒険者の活躍には健全なギルド運営が前提になる。
これは異世界に転生した僕たち4人、僕と従姉と従姉のお母さんと従姉のお母さんのお義母さんとで、ギルドを運営していく物語。
◇◇◇◇◇◇
「ユーマさん、ちょっといいですか?」
「はい、何でしょう?」
「この薬草クエストなんですけど、山の奥ですよね? 記載無いですけど、交通費支給されたりします?」
「ギルドからは無いですね。ギルドのクエスト手当は重傷または死亡した場合のみが原則ですから。記載が無ければ発注者からも交通費は出ないでしょうね」
「そっか、ですよね……」
「ただクエストは現地主義ですから、その場で発注者と交渉すれば可能性は無くはないです」
「分かりました。交渉、考えてみます」
僕は
高校1年生だった。
「だった」というのは異世界に転生したから。
前世の最後の記憶は、従姉の家族と車で旅行に向かう途中。
高速道路でバスが正面から突っ込んできて、終わり。
僕の両親は共働きで忙しく、小さいころからあまり構ってくれなかった。
それで近所に住んでた従姉の家に入り浸っていた。
みんな僕のことを実の弟、息子、孫みたいに仲良くしてくれた。
それで旅行に行くことになったけれど……
まさかあんなことになるなんて。
それで気付いたらこの世界。
モセル大陸カサン王国、地方都市フウロという場所に降り立った。
ゲームや漫画であるような神託らしきものも無く、いきなりだ。
最初はありえない事実に狼狽するばかりだった。
どうやって生活すればいいんだ?
元の世界には戻れないのか?
頭を抱えて悩み抜いた。
だけど年月を経るうちにここでの生活にも慣れてきて、今はもう気に入った。
住めば都という感じ。
今はフウロ唯一の冒険者ギルドで働いている。
ギルドのトップはギルドマスターだ。
しかしギルドマスターは冒険者あがりがほとんどで、運営の経験が無い。
冒険者として今までされてきたことを、今度はする側になった途端、何も分からなくなるのだ。
そのため外部から人を雇って運営を任せることも珍しくない。
他のフウロギルド職員は一緒に転生してきた従姉家族。
各々の持ち場で仕事に励んでいる。
受付カウンターにいるのが、
「これ、お願いします」
「はい、こちら完了報告ですね! ありがとうございます!」
僕の2つ上で高3だった。
ハツラツとしていて見ているだけで元気がもらえる。
従弟目線だが、美人だと思う。
職務は受付。
クエスト発注と受注の窓口になるので、冒険者と接する機会が1番多い。
大変そうだが、それでも明るく楽しそうに仕事をしていると評判がいい。
相談室で悩みを聞いているのが、
「聞いてくださいよ、アヤさぁん! あいつら俺のことをハブって他のヤツと組むようになったんですよぉ!」
「あらぁ~ それはつらいわねぇ、よしよし♡」
六波羅アヤさん。
ヒナ姉のお母さん。
高校生の娘がいるとは思えないほど若々しく、20代にも見えてしまう。
おっとりとした性格で聖母のごとく優しい。
旦那さんは単身赴任で家を空けていたので、旅行にはついてこなかった。
職務はメンター。
冒険者の悩みを打ち明けてもらい、その後の方針を一緒に考える。
アヤさんのおかげで冒険者を続けられているという感謝の声も多い。
会議室でギルマスのハロルドさんと話しているのが、
「商工ギルドには儂が行くから、ギルド庁の方は頼んだぞ」
「おう、分かった。」
六波羅フミさん。
アヤさんの義理のお母さん。
こちらも随分若く、40代、いや30代でもおかしくない。
いつも堂々としていて、老眼鏡がチャームポイント。
旦那さんとは息子さん、アヤさんの旦那さんが生まれてから数年後に離婚。
それからは1人で子育てをやり遂げたという。
職務は運営戦略と渉外。
ギルドの方針決定や対外関係のほとんどに関わっている。
だからギルマスとほぼ同等の発言権がある。
「フミさん1人でよくない?」と思えるくらい、とっても有能。
そして僕、普通の男子。
ルックスも運動神経も普通。
身長は、ギリギリ普通と言えなくもないし場合によってはそうじゃないとも言えるし見方によっては普通の部類に入れることが可能だと思われるかもしれない、くらい。
……高くはない。
唯一普通じゃなさそうなのは学業で、校内試験ではいつも3番以内に入っていた。
進学校というわけでもなかったし、運が良かっただけかも。
職務は総合案内。
……3人と比べてちょっと曖昧な職務かもしれない。
だが決して役立たずというわけではない。
何でもやるということだ。
受付もやるし面談もやる。
戦略も考えるし渉外に行ったりする。
全体を見て適宜サポートに入る役回りなのだ。
嫌いじゃない。
以上4人が職員。
ハロルドさんをサポートし、全ての市民にとって有益なギルドを目指している。
「ユーマ、儂は行くからな。留守を頼んだぞ」
「俺も行ってくる」
フミさんとハロルドさんが出ていく。
運営トップの2人は会合でよくギルドを空ける。
2人がいない間に起こった問題は、残った僕たちで解決しないといけない。
2人ほどではないけど、結構周りから頼られるくらいには僕も信頼されている。
僕の判断も重要になるということ。
気を引き締めないと。
「はい、いってらっしゃい」
「ユーマ、ちょっといい? クエストの発注に問題があったみたいで……」
「ユーマちゃん、ちょっといいかしら? 困った冒険者さんがいるらしくって……」
ありゃ、もう来たか。
「分かりました。順番に聞きますよ」
ギルドの運営は始まったばかり。
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