第19話

「つーか、小林。

お前そんな所で突っ立ってないで、こっち座れよ?」



川邊専務は、秘書の私にそうあり得ないような言葉を掛けて来る。




「いえ。私は川邊専務から頼まれていたこの書類をお持ちしただけなので」



私の手にあるその二冊のファイルは、

件の著作権侵害に関する報告書。



これを持ち、ノックをしてこの専務室へと入って来たが、

滝沢斗希と川邊専務は私に一瞥もせずずっと話し込んでいた。



私はやっとの思いで、そのファイルを滝沢斗希と川邊専務に手渡した。




「そういやあ、昨日。

眞山社長から、小林はとても優秀だからって言われたな」



そう話す川邊専務の表情は何処か私を労うようだけど。



私は、その眞山社長の名前に、動揺からか顔がひきつってしまう。




「篤、眞山社長と仲良いんだ。

未来の弟だもんね」


その滝沢斗希の言葉に、足が震える。



それを初めて今知ったわけではない。



ここ最近、社内の噂で、それは知っている。



眞山社長と、この川邊専務の妹であり、

川邊会長の長女との、婚約の話があると。



あの話し合いの時、滝沢斗希が口にした言葉の意味が、それで分かった。


"ーーなんで俺に、眞山社長は頼んだのだろう、と思ったけどーー"



婚約者と噂されている女性の、

兄と繋がりのある弁護士に、遊んだ女の後始末をさせるなんて。



きっと、眞山社長は、滝沢斗希と川邊篤との関係を知っているだろうし、

滝沢斗希がこの会社に顧問弁護士として出入りしているのは、その繋がりからだろう。



弁護士として、守秘義務の関係で、眞山社長と私の関係を川邊専務に漏らさないと思って、彼に依頼したのだろうか。



眞山社長は、自分と同類の彼なら、その依頼をそつなくこなしてくれると思って。

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