第3話 プロテインってそういう飲み物だったっけ?


 ゴブリンさんにプロテインを飲ませたらマッチョマンになった。

 ……うん。自分で言ってて訳が分からない。

 いったいどういう作用なのだろうか?

 プロテインってそういう飲み物だったっけ?


「はぁぁー……何だこの力は……? 今までに感じた事のないエネルギーが体内で渦巻いている。ああ、力が滾る……滾るぞ! ハァッ!」


 ズドンッッッ!

 マッチョマンになったゴブリンさんは、自らに起きた変化を確かめるように拳を振るう。

 地面に叩きつけた拳は、凄まじい音を立てて小さなクレーターを作った。

 壁や天井にもひびが入り、ぱらぱらと砕けた破片が落ちてくる。


「アナタ! 家、壊サナイデ!」


「お、おぅ、すまん……」


 ゴブリンさん、奥さんに窘められてる。こういうところはめっちゃ夫婦っぽい。

 というか、これはやってしまった感が凄まじい。

 なんかプロテインを飲ませたら、とんでもない化け物が誕生したのをひしひしと感じる。


「長、大丈夫デスカ?」


「うむ、問題ない。むしろ体に力が満ちておるわ。なんと心地よい気分か」


 というか、このゴブリンさん、やっぱりこの群れの長だったらしい。

 心配そうに駆け寄ってきた他のゴブリンさんたちに問題ないと説明している。

 あと心なしか、先程よりも声が凄く流暢に聞こえる。

 プロテインってそんな効果もあるの?


「人間、これは素晴らしい飲み物だ。礼を言うぞ」


「あ、はい……」


 感謝された。

 ゴブリンさんの笑顔、凄く笑顔だった。

 マッチョマンさん特有の、あの輝かしい笑顔である。

 自分もそんな筋肉と笑顔を身に着けたいと思い、プロテインを購入したのだ。

 ゴブリンさんに先を越されてしまった。


「この飲み物の礼だ。人間、お前が同族の住処に行くを手伝ってやる」


「ほ、本当ですかっ」


 それはありがたい。

 持ってて良かったプロテイン。

 ありがとうプロテイン。やはり筋肉は裏切らないんだ。


「とりあえず、今日は疲れているだろう。寝床を用意する。休んで疲れを癒すといい」


「助かります」


 寝床まで用意して貰えるとは。

 このゴブリンさん、親切過ぎる。


「ちなみに人間、今の飲み物はまだあるのか?」


「あ、はい。ありますよ」


「では他の者にも飲ませたい。いいか?」


 ……飲ませて大丈夫だろうか?

 でも自分に選択肢などない。ここでノーを言えば、彼らのマッスルによって、自分はマッスルされてしまうだろう。……なんだマッスルって? いかん、だいぶ混乱している。


「構いません。ただ牛乳が一本しかないので、あと四杯くらいしか……」


 たしか水でも大丈夫なんだっけ?

 でも牛乳と飲んだ方がいいんだっけか?

 分からぬ。まあ、ゴブリンさんなら大丈夫だろうきっと。

 だってマッスルだもの。


「そうか。では、おい! お前ら、こい」


 ゴブリンさんは四匹のゴブリンを呼ぶ。

 たぶんだけど、自分を見つけた時のゴブリンかな?

 なんとなくそんな感じがする。


「えっと、少々お待ちくださいね」


 せっせと牛乳とプロテインを混ぜて、シェイクシェイク。

 まずは一杯目。

 ゴブリンさんが飲む。


「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ! 力が漲るウウウウウウウウ!」


 続いて二杯目。


「カッハアアアアアアアアアアアアアアア! 最高の気分だぜえええええええ!」


 三杯目。


「ウッホオオオオオオオ! ウッホオオオオオオオオオオオ!」


 四杯目。


「あはははは! なんて気分がいいのかしら! 素晴らしいわ!」


 という訳で、新たに四匹のゴブリンさんがマッチョマンに生まれ変わった。

 凄いな、プロテイン。一気に室内が狭くなった気がする。


 マッチョマンになったゴブリンさん達は思い思いにポーズをとっている。

 やっぱり筋肉が付くと、ポーズを取りたくなるのだろうか?

 見せたくなるのだろうか? その筋肉を。張りを。輝かしさを。


 正直、羨ましくないといえば嘘になる。自分もそのマッチョさに憧れてプロテインを購入したのだから。しがないジャージ姿のアラサー野郎にはとても眩しく羨ましい。


 あと最後のゴブリンさんは女性だったみたいだ。

 他のゴブリンに負けず劣らずマッチョガールになっていらっしゃる。

 当然、布きれははじけ飛んで全裸なのだが、正直エロさよりも美しさを感じる。

 女性のボディビル大会とかで感じる厭らしさの無い美しさと言えばいいのだろうか?

 このゴブリンさんが大会に出れば優勝間違いなしだろう。


「父上、これは素晴らしいですよ。今なら、たとえ大鬼族オーガとやり合ったとしても余裕で勝てる気がします。私の二の腕がそう囁いてます」


「俺様もだぜぇ! 今ならどんな大岩だろうが軽々持てらぁ! つーか持ちてぇ! 俺様の肉体が試練を求めて叫んでる気がするぜ! ちょっと外に出てくらぁ!」


「うっほ! うっほ!」


「力だけでなく魔力も上ってるわぁ。上級魔法も使えそう。最高の気分よぉ」


 プロテイン、ゴブリンさん達に大好評。

 というか、一匹だけむしろ言葉使いが退化してるやつ居ない?

 うっほしか言ってないじゃん。


(これからどうなるんだろうなぁ……?)


 まあとりあえずこれからの事は、明日起きてから考えよう。

 緊張の糸が解けた所為か、寝床に着くと、すぐに眠気が襲ってきた。


 あぁ、自分もいつかゴブリンさんみたいなマッチョマンになりたい。

 というか、早く家に帰りたい……。

 そんな事を思いながら眠りについた。


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