夕霧カノンは白魔導士
みずたま。
第1話。夕霧カノンと『僕』の関係性について
|『僕』
「僕自身の概要は行動で示していこうと思う。
その方がスマートだろう」
「
「銀の乙女、というあだ名がつくほどに、白銀の
存在だった。私立高に通っているが私服・
帽子・肌・瞳…彼女を包んでいるものは総て
白銀に占領されていた」
「そして、最も特徴的なのは、手にした白杖」
「必要のないはずの白杖」
「盲目でなければ使わない代物」
「周りはそれを「個性」と割り切っていた」
「だけど僕は知っている」
「彼女が盲目であることを」
「そして……………」
『?????』
深夜。
とある廃棄場。
そこには、全身白いローブに身を包んだ少女と、
全身黒いローブに身を包まれた少年が居た。
何故かって?そりゃ皆が期待する展開さ。
色恋沙汰じゃあないさ。
…バトルものって、興奮するだろ?
『僕』
「…また、会ったよ」
『カノン』
「また、あったね?」
『僕』
「もう何度目になるだろうか。…いや、何十度
目って言った方が早いか。僕はその度カノン
に負けっぱなしだ」
『カノン』
「むう。カノンのことを「カノン」と呼ぶのは
カノン一人でいいのー。呼び捨て禁止って
いつも言ってるのにー」
『僕』
「そんなこと言われても」
『カノン』
「カノンはいやーなの!めっ、だよ?」
『僕』
「可愛くされても」
『カノン』
「かわいい、って思うの?名前も知らない人」
『僕』
動揺する。
僕は慌てて咳払いをして話題を切り替える。
「…まあいいんだよそんなこと。今から起こる
ことにとっては些末なことさ」
『カノン』
「そだね。それじゃ、はじめる?」
『僕』
「ああ。それじゃ、やろうか」
『?????』
そして二人は宣言した。開戦を。
『僕』『カノン』
「…「魔術」を!」
『?????』
暫時、二人はその場に無言で佇む。
時を待つ。
何の時?
真名を掴める精霊を見つける時を待つ。
『僕』『カノン』
「……………」
『?????』
時はまだ来ない…が、ジリ、と僅かに動いたのは
黒ローブの少年。
利き腕には小石をいくつか隠し持っていた。
投擲。
『カノン』
「…!?」
『?????』
カノンはその奇襲を全く避けられず、総て顔面に
受け止めた。
些末な攻撃と判断して避けなかったのではない。
避けられなかったのだ。
…夕霧カノンは、盲目。
魔力を使わなくては、視力を持たない。
『カノン』
「!、!、!!…ずるい、しかも目を狙った。
すごくずるい」
『僕』
「ずるいのが「黒魔導士」の本願だね!
そうだろう「白魔導士」!
それじゃあ準備も整ったから行かせて貰う!」
『?????』
黒ローブの少年の周りの闇が、濃く、漆黒を深く
していく。
重い、球体状の何か。
黒ローブの少年を包みこんだ「それ」はいつしか
フワリ、と頭上へと浮かび上がり、
「シュン!」とカノンに向かって突撃していく。
『僕』
僕は、真名を叫んだ。暴力的な「それ」を。
「【塗り潰せ
『?????』
……………ドンッッッ!!!!!
黒球は確実にカノンを打ち抜いた。
辺りには砂塵が上がり、黒ローブの少年は軽く
咳き込んだ。
『僕』
「…けほ。やりすぎたかな?でもやっと僕の
勝利かな。奇襲なんて僕の趣味じゃないけど
本当は。さて、帰ろうかな」
『カノン』
「……………もう、帰るの?」
『僕』
「…!?」
『カノン』
「まだ、夜は始まったばかりだよ?…なんて。
カノンが言ったらいやらしい意味、かな?」
『僕』
「いや、顔を赤らめられても。…そうじゃない
違う、違う。…なんで平然として立っている」
『カノン』
「…あは。ずるいのは黒魔導士の本願だろう
けど、何事にも全力なのは白魔導士の真骨頂
だと思うの。…ね?」
『?????』
そうしてカノンは、背後に向けて手をひらひらと
振った。そこには、透明な、しかしよく見ると
巨大で精悍な騎士が立っていた。
黒球は、この騎士が総て受け止めたのだろう。
カノンは、全くの無傷。
強いて言えば顔にいくつかの小石の当たった跡が
残っていたくらい。
しかし、カノンは多少の怒気をはらんで言った。
『カノン』
「…それじゃ乙女を傷物にした人にはお仕置き
なのー。覚悟してねー」
『僕』
「いや、誤解を招く表現されても!というか
まさか…」
『カノン』
「うん。「詠唱破棄」してここまで持って来る
のは大変だったけど、今はもう全開放しても
何をぶっこわしてもへーきなの」
『僕』
「僕も一応生身の人間なんだけど!?」
『カノン』
「あ、それと石投げてたのは何となく分かってたからね?避けなかったんだよ?かくごしてねー。いっくねー」
『?????』
カノンは黒ローブの少年の言い分を全無視して
真名を叫んだ。
『カノン』
「【おおきいおおきい
きりでゴメンだよー!】」
『?????』
ドッカーン……………。
一世代昔のアニメの様な効果音を残し、その後の
夜はまた静寂へと戻っていったのであった。
******
『僕』
「……………」
まただ。
また、こっぴどくやられた。
「…はあ」
まただろうな。
またあの人に弄られて玩具にされる。
「……帰りたくねえ」
でも、仕方がない。また、僕は自分の職場兼
住込み先に足を向けていた。
暫時が過ぎた。
『ーーー』
「おーお帰りーどーだったー?」
『?????』
その安楽椅子に揺られた男性は、口調とは別に
黒ローブの少年の方には顔を向けず、成年向けの
書籍の拝読に夢中になっていた。
その様子に黒ローブの少年は嘆息しながらこう
言った。
『僕』
「相変わらずそんな本読んでよく平然としてます
ね。ETなんですか?」
『ーーー』
「それを言うならEDなー?てか往年の名映画
よく知ってるな青少年」
『僕』
「本題。負けました」
『ーーー』
「だろうな」
『?????』
そういうと安楽椅子の男はやっと顔を黒ローブの少年に向けた。その顔は、渋面だった。
『ーーー』
「なあ。オレの名を言って見ろよ青少年」
『僕』
「…はい。ダウト…さん」
『ダウト』
「よろしい」
『?????』
ダウトの激しい嘆息。
愚痴は続く。
『ダウト』
「オレがこんなけったいな名前を拝借している
理由は知ってるな?知ってるよなあ説明
したし。「嘘つきにはなってほしくない」
っていう反面教師な訳。実際は違くなったが」
「まあそれはいい訳。本題だよ青少年。何回目
な訳?同じ様に白魔導士様にぶっ飛ばされて
すごすご敗戦して戻ってくんの。オレは呆れ
を通り越して苛立ってるわけ?わかる?」
「夕霧カノン。あの白魔導士だけは異質なわけ。
知ってるだろうが。魔術には精霊の真名が
無いと発動すら難しい。それを「破棄」して
アイツは日常的に魔術を使っている。人間業
じゃないよ。…オレ達も似てるんだけどな」
「話が逸れたな。アイツを倒して検体にして
「詠唱破棄」の謎を解く。それがオレ達の目的
であり、存在条件」
『僕』
「…それなら自分でいけばいいのに(ボソッ)」
『ダウト』
「何か言ったか青少年」
『僕』
「いえ何も。それよりまた話が逸れてませんか」
『ダウト』
「それもそうだな。本格的な話に行こう」
『?????』
そう言うとダウトは成年向けの書籍を脇に置き、
胸ポケットから煙草の箱を取り出した。
否。
正しくはシガレットチョコの入った箱を、だ。
『僕』
「いい加減モノホン吸いません?」
『ダウト』
「うっせえ。オレは長生きしたいの」
『僕』
「カッコつけの為だけに金を使うのはどうかと」
『ダウト』
「本当にやかましいわ。…作者が煙草を嫌厭
しているからキャラにもそうしてるんだと
(ボソッ)」
『僕』
「?」
『ダウト』
「それはいいんだよ青少年。本格的に行こう」
『僕』
「はい」
『?????』
ダウトは、シガレットチョコを咥え話し出した。
『ダウト』
「白魔導士」
「カノンのような【世を救う】魔術の行使者」
「黒魔導士」
「オレ達のような【世を脅かす】魔術の行使者」
「力の質と行使の仕方はほぼ同様だが、目的は
全く異なる。だから」
「黒魔導士は白魔導士を付け狙い、あわよくば
無力化して、検体目的に本部に送り届ける」
「白魔導士はそれに構わずに何時でも何処でも
どこまでもだれとでも。世界を救う為に
今日びも変わらず活動している、というわけ」
「問題。」
「特別にカノンを検体にしたい理由は?」
「解答。」
「…「詠唱破棄」があいつしか使えないから」
「事実。」
「夕霧カノンの存在はそのことで白魔導士の中
でも存在が神格化され始めている」
「起承転結の、むすび。」
「独占されたくねえ」
『?????』
そこまで話すとダウトは、ギィ、と安楽椅子を
きしませて立ち上がる。そして黒ローブの少年に
相対した。
『ダウト』
「オレはお前に期待している。事実可能な任務
だろう?そうだろう?お前の意思は関係ねえ」
「夕霧カノンの存在が世界に求められるのと
同じように。」
「青少年。お前の存在も、オレ達の世界に
求められているんだ。」
「夕霧カノンに勝つ。そうすることがな。」
『僕』
「…それは良いんですよ。だけど」
「いい加減名前で呼んでください」
「呼びづらいでしょういい加減」
『ダウト』
「そう思うのは青少年だけだ。第三者にも関係
ねえんだ」
『僕』
「第三者?」
『ダウト』
「いいんだよ流しとけ。とにかく」
「やれ。」
『?????』
ダウトのその言葉に、黒ローブの少年は、
『僕』
「承知しました、ダウトさん」
『?????』
とだけ告げたのだった。
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