第17房 Shall we トレーニング?🦍🐢🏋🏻

 ――5分後、時刻【10時45分】


 1階の受付前。


 ゴリラは、ここでマリンから建物内の案内と注意点などを聞いていた。


「まずは1階からですね! こちらは大きな器具を取り揃えています!」


 1階はベンチプレスやフットプレスなどの大きな器具が用意されており、その全面は正しいフォームでトレーニングを行う為に鏡張りとなっている。


 他にも、簡易的なロッカーその横には、ゴリラでも大丈夫な最大測定値が250kgの体脂肪率もわかる体重計。

 

 そして腕が太くても使用できる血圧測定器が設置されている。


「ウホウホ?」

 

「あ、はい! もちろん、体重計や血圧測定なども自由に行って頂いて大丈夫ですよ!」

 

「ウホ!」


 体の大きな自分が使用できること。


 そして、ゴリラは彼女の「自由」という言葉を聞いて目を輝かせていた。


「ウホウホ!」

 

「そんなに喜んで頂けるとは……私も嬉しいです!」

 

「ウホ!」

 

「はい! あとは、トレーニング中のご使用の際は、スマホなどの操作、飲食行為等は禁止させて頂いております」

 

「ウホ、ウホウホ?」

 

「もちろん、水などの飲み物は大丈夫です! ただし、プロテインなどを持ち込まれる際は、事前に混ぜてからお越し下さい!」

 

「ウホウホ!」

 

「それと、1つの器具の使用時間は決めさせて頂いております」

 

「ウホウホゥ、ウホ?」

 

「そうですね! ここに来る皆さんが気持ちよく使用してもらう為です!」

 

「ウホ、ウホウホ!」

 

「はい! 私もそういった心遣いが大事だと思っています! 1階の案内と注意点はこんな感じでしょうか……他に聞きたいことはございますか?」

 

「ウホ!」

 

「わかりました! でしたら、次は2階を案内させて頂きますね」

 

「ウホー!」


 そして、彼らは階段を上がり2階へと向かった――。




 🦍🐢🍌




 ――10分後。


 時刻【11時00分】


 2階の階段前、ゴリラはここでマリンからの説明と案内を受けていた。


「――こちらは、高重量を扱う器具ではなく、主にストレッチや有酸素運動をするフロアになりますね!」


 この階は階段のすぐ左手に通路があり、窓際にはランニングマシン5台とサイクリングマシンが3台。


 そして更にその奥にはヨガやストレッチを行う為のマットも2枚敷かれている。


「ウホウホ?」

 

「そうですね! 使用する際の注意点などは同じです」

 

「ウホ、ウホウホ?」

 

「はい! この通路の先が更衣室、トイレ、シャワールームとなっております」


 ゴリラは、少し歩みを進めて通路の先を覗き込み、周囲の様子をキョロキョロと確認する。


「ウホウホ」


 そこには、ちゃんと案内板や使用方法など、壁に貼られていた。


「ウホゥ……」


 その様子が気になったマリンは、気を利かせて声を掛けた。


「えーっと、使用方法など、説明させて頂かなくて大丈夫ですか?」


 もう顔も赤くはなく、ここのスタッフとして自然に振る舞えている。


 その気遣いにゴリラは子供のような笑みを浮かべて応じた。


「ウホ!」


 このやり取りにも慣れてきたのか、マリンは彼を真っ直ぐと見つめながらも取り乱すことなく、スタッフとして責任者として対応する。


「うふふっ、大丈夫ですか! 承知致しました! では、これで案内と説明は以上となります! 他に不明な点などはありませんか?」

 

「ウホウホ!」

 

「わかりました! では、今から利用できますので、楽しんでいってくださいね!」


 ゴリラはそんな彼女に犬嶋犬太を重ねてしまい、反射的にその頭を大きな手で優しく撫でていた。


「ウホ……ウホウホ」



 ――その瞬間。



「なっ……!?!?」


 マリンは戸惑い顔も耳も真っ赤に染め、完全に直立不動状態となった。


 そんな彼女が心配になり、ゴリラは優しく話し掛けた。


「ウホウホ?」

 

「ひゃい!」

 

「ウホ?」

 

「だ、だ、だ、大丈夫です!」


 マリンは反応こそしたが、先ほどまでの毅然とした態度ではない。


 完全に落ちてしまったのかも知れない。


「恋」とやらを、目の前のゴリラ相手に。


 それを誤魔化すように、慌ててポケットから何かを取り出すと彼へと差し出す。


「あ、そ、そうです! こ、こちらを!」


 その手にはこのジムのトレードマークであるダンベルを掲げた亀が印字された黄色の電子キーがあった。


「ウホ?」


 差し出された電子キーを前にゴリラは首を傾げる。


 これが自分の電子キーということは理解していた。


 だが、先程と違いマリンと目線が合わないことを不思議に思っていた。


「ウホウホ?」


 ゴリラがどうにかして目を合わそうと試みる。


 しかし、やはり合わない。


 そんなキョロキョロするゴリラに対して、マリンも必須に、その立派な眉毛に向けて話し掛けた。


「えーっと、こちらがゴリラさんの電子キーです!」


 そんなマリンの様子を不思議に思い、ゴリラは再び首を傾げた。


「ウホウホ?」

 

「だ、大丈夫です!」

 

「ウホ……ウホウホ」

 

「と、とにかく! こちらは無くさないようにしてくださいね! 再発行にはお金も掛かりますので」


 マリンは心配する彼へ強引に電子キーを手渡す。


 もちろん、その視線は太く立派な眉毛に向いている。


「ウホウホ」


 ゴリラは彼女の勢いに負けて電子キーを受け取った。


 すると、マリンが恐る恐る口を開く。


「で、では、どうしますか? トレーニングをするのが初めてでしたら、私もご一緒させて頂きますが……」


 そう、この短い間でマリンの心は決まったのだ。

 この胸に抱く淡い恋心を、全力でアピールすることに。

 

 ただ、早乙女臣の影響あり、恋愛の「れ」の字も知らず、彼女がアピール方法に選んだのは……まさかの合同トレーニングだった。


 そんな考えを微塵も理解していないゴリラの頭の中は、バナナ畑でいっぱいになっていた。


 これはもしかして、この事がきっかけで新たなバナ友ができるのではないか? と。


 なので、彼はその誘いを受けることにした。


「ウホウホ」


 ゴリラはよほど嬉しいのか子供のような笑みを浮かべている。


 しかし、そこは社会人……社会ゴリラとして、マリンの仕事の心配もして声を掛けた。


「……ウホウホ?」

 

「あ、いえ! この後、お休みを取っているので――その一緒にトレーニングできたなら……いいなって」

 

「ウホウホ!」

 

「おっけーですか! やった! って、す、すみません! お客様相手にはしゃいでしまい……」

 

「ウホ、ウホウホ!」

 

「優しい……では、よろしくお願いします!」

 

「ウホウホ?」

 

「あ、はい! 1階でお願いします!」


 こうして、マリンとゴリラは1階で一緒トレーニングすることになった――。

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