無能力だとしても最強の斬撃で敵機撃墜〜オルスティアの空〜
若羽
第一章 約束の蒼穹
1話 空駆ける騎士と剣
蒼穹はどこまでも続いていた。
そして見渡す限りの青と、その背景を彩る僅かばかりの緑と白が世界を造っている。そんな天空界オルスティアにて、虚空に浮かぶ島々を越え、雲を突き抜ける一筋の青い閃光と、それを追わんとする四つの銀光があった。
この空を飛翔する計五騎は“ソード”と名付けられる騎士型巨大兵器。騎体名はグラディウス、エリギウス帝国が保有している主力量産騎である。
グラディウスは紫色のカラーリングを基調とし、騎士の
また、追われている一騎のグラディウスが放出する粒子が形成する騎装衣の色は蒼、そしてそれを追う四騎のグラディウスが放出する粒子が形成する騎装衣の色は銀色である。
「あーもう、しつこいなあ!」
追われる一騎のグラディウスの中で、少年の悲痛な叫び声がこだました。右頬に大きな絆創膏を貼った黒髪金眼のその少年は、エリギウス帝国所属の騎士を意味する、黒い騎士制服と騎装衣をまとっている。名はソラ=レイウィングといった。
「いい加減諦めてくれよな、もしかして暇なのか?」
追跡が開始されてから数十分が経過し、ソラはたまらず叫ぶ。そんなぼやきを伝声器越しに聞いていた、グラディウスを操刃する同じくエリギウス帝国の騎士であろう追手の内の一人が応える。
『暇な訳あるか! てめえが逃げなきゃこっちだって追わねえんだよ』
「そっちが追わなきゃこっちだって逃げないっての!」
『あのなあ、てめえが持ち出したのはな“大聖霊石”なんだぞ、解ってるのか?』
少年は懐に忍ばせた拳大の、灰色に輝く石をちらりと
ソードの核となるのは聖霊石と呼ばれる聖霊の意思の結晶体であり、大聖霊石とはソードの中でも神剣と称される、ある特別なソードの核となる聖霊石である。
一振りですら国家の最大戦力になりえる神剣の核、それを今自分が所持しているという現実に改めて背筋が凍り付く。ソラはソードを操るための、剣の柄の形状をしたレバーを更に強く握り締め、既に最大限に踏み込んでいる剣の
しかし四騎のグラディウスを引き離すことは出来ない。それも当然、性能が同じグラディウス、そして己も相手も最大速力で飛翔しているとあってはイタチごっこだからである。
四騎のグラディウスは
しかしこのまま飛翔し続けていても追手を振り切ることは出来ない、いずれソードの動力となる
詰みの見えているジリ貧状態の中でソラはぼやく。
「くそっ、何でこんな事になったんだっけ?」
ソラが無意識に、今のこの状況に陥った原因を振り返ったその時だった。青に覆われ続けていた世界の眼前に、黒い暗幕が広がっていることにソラは気付く。
「あれは!」
浮遊島一つを優に飲み込むだろう巨大な楕円形をした“それ”に対して、ソラは速度を緩めることなく、真っ直ぐに突っ込もうとした。対照的に騎体を減速させ、やがて空中で停止する追手の騎士達。
『やめろ! 止まれ!』
追手の騎士の静止に耳を傾けることなく、ソラは“それ”へと突き進む。“それ”の正体の名は“
竜卵へ突入したところで、それは単なる自殺行為、どうにもならないことは分かっていた、しかしそれでも戻れば確実に捕獲される未来しかない。進むことも戻ることも出来ない、前門の虎と後門の狼……そしてソラは虎を選ぶのだった。
「あんた達のせいで、分の悪い賭けをしなくちゃならなくなった」
『元はと言えば貴様が――ってそんな事よりよせ、大聖霊石が!』
追手の騎士の最後の忠告も無視し、ソラは竜卵の中へと飛び込んだ。
瞬間、凄まじい雷と磁場の嵐に飲み込まれ、騎体はコントロールを失い、眼前の透明の板へと映し出されていた探知器の表示も消え去る。更に気流の渦は上下左右の方向感覚すらも失わせ、轟く雷鳴は聴覚すらも機能させない程であった。操刃室の壁面越しに映し出される外部の情景は歪んでいるせいか、稲妻がまるで怒り狂う蛇の大群かのように錯覚させる。
――甘かった。
ソラはすぐさま後悔した。無茶ではあるが、この雷雲の塊さえ強引に抜けてしまいさえすれば何とか逃げ切れる。そんな淡い期待は一瞬で消え失せた。そして“死”その一文字だけが脳裏を過る。
「くそっ、まだ死ぬわけにはいかない……俺にはやらなくちゃならない事があるんだけどな」
直後、ソラは操刃するグラディウスの目の前に、自身の騎体と同じ程度の直径の、円形をした空間の歪みのようなものが出現したのを確認した。
「はあ、これがあの世への入り口ってやつなのか?」
それを最後に、ソラの意識は途絶えた。
※ ※ ※
【量産剣グラディウス イラスト】
https://kakuyomu.jp/users/junmaifuufu0801/news/16817330668165475358
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