俺が出ていったらこの島が墜ちるにもかかわらず、追放させられたので新天地で最強にでもなりたいと思います~島を浮かせる必要が無くなったので魔法が使い放題になりました~
一木連理
プロローグ①
「お前らなんか――この島から出て行っちまえばいいんだ!」
「消えろ! この悪魔どもめ!」
「てめぇらが使う『魔術』なんて、化物が使う力と同じじゃねぇか!」
窓の外では、松明を持った領民が大挙して押しかけてきていた。
この島では、ここ数カ月の間に魔族の飛来によって領民が殺される事件が発生している。
農作物は散々に荒らされ、民家も壊されたというニュースが島中を駆け巡った。
そのことについて、関係ない――と開き直るつもりはないが、正直俺達を責めるのは的外れな意見だとも思っている。
窓の外では領民たちを押さえようと、警備兵が夜半にもかかわらず駆けつけて彼らを門の前で食い止めていた。
「大変ですね、父さま方も」
「みたいだな、俺たちがこの島から出ていったらどうなるのか、多分分かってないんだろ」
ですね、と返してきたのは、盟友であり幼馴染でもあるファンだ。
俺と同い年で16歳。
今年、士官学校を共に卒業した。
きりりとした顔立ちは士官学校に通っていた女の子たちに大人気だった。
背丈は俺の方が高いが、小柄なのもなおの事かわいらしくて良いらしい。
生まれながらの銀髪に、青い瞳がきらりと輝いている。
そして、明日からファンは貴族として実務に就くことになる。
「政治のクロー家、門番のルーナ家」という言葉がこの島には存在する。
政治はクロー家――つまりファンの一族が代々担当する。
門番はルーナ家――つまり俺ことケルンの一族が代々受け継いでいる。
ファンの本名はファン=クロー。
そして俺の本名はケルン=ルーナだ。
互いに貴族の一員としての規範的な行動をしなければならない。
「もう明日か」
「随分と早かったですね――ここ数年は大変でした」
「今も大変だけどな」
「笑えません」
ここルーナ領は『浮島』だ。
世界で唯一とされている、地上とは切り離された飛行大陸に俺たちは住んでいる。
その支配領域は大陸全土だ。
士官学校で戦闘技術など諸々の知識を学び、ファンは明日から彼の父親と共に領土を治める仕事が始まる。
「やってくる敵はそりゃもう強いですし、家の私兵でも全滅なんてことがよくあります。このままいくと遅かれ早かれこの国は滅びますよ」
「随分悲観的だな」
「明日から、この街の中央部を任されたんです」
街の中央部を任される――その意味が分からないわけではない。
それはつまり――次期領主の内定のようなものだ。
だが、軽く一言で言われてもサラッと流せる話ではない。
「主席で卒業したんだ、それくらい目を掛けられてるってことだろ。まぁ――なんだ、おめでとう!」
「ありがとう、君にも助けられてもらったからね」
クロー家も一枚岩ではない。
膨張と併合によって生まれた彼の血筋は、ルーナ家とは違って非常に入り組んでいる。
謀殺や政略結婚がまかり通る政治の世界でファンは生きている。
その苦労は俺には計り知れない。
「君も、明日から職務に就くんでしたっけ?」
「ああ、俺のところはまぁ職人技みたいなものだからな……」
「税関で、ですか……?」
税関。
俺達ルーナ家の仕事はそういうことになっている。
この国は浮島だ。
地上からくる人間の精査を主に担当している。
どうやってこの浮島にやって来るのかは一族だけの秘密だ。
「とはいえ、最近色々ポカやらかしてるっぽいしな……」
「まぁ、名誉と伝統のあるルーナ家です。取って代わられることはないでしょう」
僕とは違ってね、と暗い笑みでファンは呟く。
そんな反応をされると、「元気出せよ」くらいのコメントしか言うことができない。
とはいえ、ファンは昔からずっと頭が切れる。
俺が考える以上のことを常に考えていた。
そのいい例が、士官学校のトップ争いだった。
勉強と魔法、それから剣術に体術。
すべての科目で俺とファンは1,2を争っていた。
最終的に、俺はファンに負けて卒業することになった。
今でも忘れない、悔しい思い出だ。
ほんの僅かな僅差、課目によっては俺もいくつか勝っていたが、あとちょっとの点数で首位を渡すことになってしまった。
そんな過去もあるが、昔からずっと仲のいい親友だ。
「では、また明日」
「そうだな、明日からはお互い協力し合っていこう」
「そうなると良いですね」
おやすみ、という挨拶を交わして互いに互いの部屋に戻る。
ここは、クロー家とルーナ家の豪邸を互いに結ぶ渡り廊下。
かつてより、ファン家とクロー家は一心同体、その願いで300年前に作られた豪邸だ。
何度かの修改築の末、今に至る。
ここで話すのが、俺とファンのつながりでもあり、ルーチンでもあった。
そして、翌日――このルーナ島で類を見ない程のクーデターが起こることを、俺はまだ知らない。
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