失恋して彼女を寝取られてしまいましたが、学校一のおひいさまに溺愛されています

瓜生史郎

第1話

「ねぇ和也……。私達別れよう」


 その一言が、俺、宮原和也みやはらかずやの頭の中で何度も繰り返し響く。


 え……?と、間抜けな声を出した俺を、恋人である小林美咲こばやしみさきは冷たい瞳で見つめていた。


「正直、和也って……地味だし、つまらないんだよね……」


 何も言い返せない。


 クラスでは、教室の隅にいるような地味な陰キャで、容姿もあまり良いとは言えない。


 でもそんな俺を、美咲は受け入れてくれたと思っていたのに……。


「だから、橘君と付き合うことにしたの」

「え……?」


 橘翔太たちばなしょうた。学校1のイケメンで運動も、勉強もできる、いわゆる完璧超人。美咲の隣にはそんな橘が、勝ち誇ったように立っていた。


「あきらめろよ宮原、お前じゃ美咲は満足させられないんだからさ」


 小馬鹿にするように言いやがって……。


 悔しい……。だが何も言い返せなかった。


 涙をこらえるのに必死だったのだ。


 こんなの、漫画やアニメでたまにある寝取られじゃないか……。


「橘君、こいつの事なんてもう良いから、早く帰ろ?」

「おう、そうだな。じゃあまた明日学校でな。宮原」


 そう言って俺の目の前で、美咲と翔太は並んで教室を出て行く。


 俺はただその背中を呆然と見送るしかなかった。






 次の日、俺は教室の自分の席でうなだれていた。


 周りでは、俺が美咲に振られた事が広まっているのか、ひそひそと俺の方を見ながら噂話をしている。


 正直もう帰りたい……。


「昨日の話、聞いたぞ。小林に振られたんだって?」


 背中を叩かれて振り返ると、そこにいたのは親友の西園寺啓太さいおんじけいた


 地味で陰キャの俺とは正反対に、陽キャな雰囲気の啓太だが、昔からの付き合いで、所謂悪友というやつだ。


「……まあ、な」


 ふと美咲のいる席を見ると、美咲は橘と仲良く談笑していた。


 橘と話している美咲の顔は、俺と話している時と比べて何倍も楽しそうに見える。


 ダメだ。見ていても虚しくなるだけだし、もうあの2人の事は見ないようにしよう。


「あんまり気にすんなよ! 世の中にはまだたくさん女の子がいるんだしさ、ほら例えばおひいさまとかさ」


 そう言って指差した先には、この学校のおひいさまと呼ばれる白崎凛華しらさきりんかがいた。


 腰まで伸びる長い髪で端麗な顔立ちをしていて、文武両道、成績優秀。


 おまけに男女問わず誰にでも丁寧に優しく話すことから、この学校の生徒からは学校一のおひいさまと呼ばれている。


「いや……絶対無理だろ」


 考える間もなく俺は即答すると、啓太は「だよな」と笑って肩をすくめた。


 美咲でさえ、俺と釣り合っていなかったのに、おひいさまとなんてもっと釣り合うはずがない。


 それにもし、俺とおひいさまがそんな関係になったら、クラスの男子から何をされるか……。


 想像もしたくないな……。






 自分の住んでいるマンションに帰宅して、ドアを閉めると、ひどく疲れている自分を感じる。


 何もしたくなくて、ただベッドに倒れ込んだ。

 

「つまらない、か……」


 スマホの画面をぼんやりと見つめながら、美咲の顔が頭をよぎる。


 あの「つまらない」という言葉が、どうしても引っかかって離れない。


 彼女に好かれようと、普段より明るく振る舞ったり、美咲の趣味に合わせたりもした。


 それなのに何が駄目だったのだろうか?俺が陰キャだから?それとも、俺の趣味が気にいらなかった?


 反論する間もなく橘に美咲を取られた自分の情けなさが、じわじわと胸に広がっていく。


「俺って何なんだろうな……」


 呟きながら天井を見つめ、自己嫌悪に陥っていた時だった。


 スマホにメッセージの通知が届く。


『久しぶり~! 元気してる~?』

「リリィ……」


 思わず少しだけ顔が緩む。


 リリィは、ゲーム内でよく一緒にプレイしているネット友達で、美咲と付き合う前までは、毎日のように夜中まで通話をしながらオンラインゲームをする仲だった。


『久しぶり、元気だぞ』


 落ち込んでいることを悟られないように、返信する。


『良かった~。久しぶりに一緒にゲームやろうよ』


 ゲームか……。気晴らしにやってみるかー。


 俺は分かったと返事をして、パソコンの前に座り、ゲームを起動することにした。


——— ——— ——— ———


少しでも面白いと思った方は、応援コメント、フォローや☆をもらえるととても励みになるのでよろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る