夜の訪問者
からし
夜の訪問者
冬の夜、クリスマスイブの寒空の下、都会の喧騒は少しずつ収まり、街は静寂に包まれていた。町の広場には大きなクリスマスツリーが飾られ、輝くイルミネーションが煌めく中、シンと冷え込んだ空気の中で、家々の窓からこぼれる暖かな光が人々を包み込んでいた。しかし、その温かな光の中でひとり、華子は不安に震えていた。
華子はひとり暮らしの女性で、クリスマスの夜は毎年孤独に過ごすのが常だった。
今年も例年通り、予定もなく、ただ家の中で静かに過ごしていた。
だが、今夜は何かが違う気がしていた。
外の雪の降る音が耳に入る中、何度もドアを見つめ、電話が鳴るたびに心臓が跳ねるような気がした。
電話が鳴った。
「もしもし?」
電話の向こうから、冷たい声が響いた。
「華子、クリスマスは一人か?」
その声は、彼女が何年も忘れようとしていた人物の声だった。
彼の名前は啓介。
数年前、彼と別れた後、彼は突然姿を消し、もう一度連絡を取ることはなかった。
だが、彼の声はまるで昨日のことのように、鮮明に華子の記憶を呼び起こした。
「啓介…?」
華子の声が震えた。彼が何故今、突然電話をかけてきたのか理解できなかった。
「そうだ、華子。久しぶりだな。」
その後、電話の向こうで何も言わない啓介に対し、華子は焦りを感じた。
彼女は電話を切ろうとしたが、次の瞬間、啓介の声が低く響いた。
「でも、今年はひとりじゃないよな? その家に、誰かが来る。」
華子は思わず息を呑んだ。
玄関ドアの方を振り向くと、玄関の外でかすかな音がしたような気がした。
誰かが近づいている…。
彼女は恐怖を感じ、慌てて電話を切ろうとしたが、その瞬間、電話がガチャリと切れた。
啓介が来てるの?サプライズ的な?
華子は立ち上がり、ドアの鍵を確認した。
外に誰かがいるかもしれないと思い、ゆっくりと覗き穴から外を覗いたが、街の明かりの中では何も見当たらなかった。だが、心の中で何かが確かに迫ってきているような気がしてならなかった。
ピンポーン
その時、玄関のチャイムが鳴った。
「誰?啓介なの?」
華子は声を震わせながらドアに向かって叫んだが、返事はなかった。
しばらく静かな時間が流れ、彼女は恐怖を感じながらも慎重にドアを開けることを決めた。
ドアを開けると、そこには誰もいなかった。
しかし、華子はすぐに気づいた。
ドアの前に、ひとつの箱が置かれていた。
小さな、茶色い箱。それには何も書かれていない。
手が震えながらも、彼女はその箱を手に取った。
箱を開けると、そこには小さなカードとともに一枚の古い写真が入っていた。
写真には、華子と啓介が一緒に写っているものだった。
しかし、その写真の中の啓介の顔が恐ろしいほど歪んでいた。
まるで死者のように青ざめた顔が、華子をじっと見つめている。
バチィン
その瞬間、部屋の明かりが突然消えた。
真っ暗な部屋で、華子は息を呑んだ。あたりは深い静寂に包まれ、彼女の耳には心臓の鼓動だけが響く。暗闇の中で何かが動く音がした。冷たい風が背筋を撫で、彼女はその音が近づいてくるのを感じた。
突然、背後で何かが肩に触れた。
華子は振り返ることができず、その場に固まった。
暗闇の中から、低い声が響く。
「クリスマスに一人じゃ寂しいだろう?」
それは啓介の声ではなく、別の誰かの声だった。
彼女は恐怖で動けなくなり、目の前が真っ暗になった。
数秒後、部屋の中にわずかな明かりが灯った。
華子がその明かりを頼りに視線を向けると、目の前には白い顔の男が立っていた。
目が虚ろで、唇はひどく裂けていた。
その男は静かに、言った。
「君の家に来たのは、俺だ。」
華子の心臓は激しく鼓動を打っていた。
男の目がゆっくりと華子を見つめ、彼女の恐怖を楽しんでいるようだった。
その瞬間、部屋の隅に置かれたスタンドライトの光が点滅し、部屋は再び暗闇に包まれた。
気がつくと、男は消えていた。
だが、その後も恐怖は続いた。
啓介からの電話は何度も続き、マリアはその度に恐怖に震え、逃げることができないまま、孤独な夜を過ごし続けた。箱の中に入っていた写真には、次第に他の写真が増えていった。毎回、彼女の家に訪れた痕跡が、写真の中に確実に残されていた。
最後の写真には、華子自身の姿が写っていた。
そして、その顔はどこか異常に歪んでいた。
彼女が最後に見たもの、それは家の玄関で待つ啓介の姿だった。
クリスマスの夜は、静かに過ぎ去っていった。
夜の訪問者 からし @KARSHI
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