優しい物語を見て、小説を書こうと思った

クマとシオマネキ

ウンコみたいな若造の捻れた青春編

「まぁお父さんもなぁ…出来なかったからな。大丈夫だよ、お前は大丈夫だ」


 何が大丈夫なんだろう?

 使えねぇ親父だな、俺は。


 今日は小1の息子のバスケの試合だった。

 息子は周りが走ってる中、ノロノロ歩き、試合の流れに全くついて行けず、女子選手に励まされ、途中の休憩で言った言葉は『これ、いつまで続くの?』だった。


 子供の考えている事は、よく分からん。

 やりたいと言ったのは本人、いつも当日になると行きたくないと言い、まぁ俺自身もバスケに興味無いから辞めても良いかなぁと思ったら、今度は行くと言い出す。

 そして、試合に出てはこの調子である。

 チームが弱いから試合に出るがその弱いチームの中ですら、周りの実力の高さに何をやって良いか分からない。


『ととやん、これ、いつまで続くの?』


 言えなかった、お前が何でやるって言うのか分からないけど、これからどれくらいか知らんけど、俺と同じなら…それが色んな事でずーっと続くぞって。


 終わってから息子は、半べそで俺の腰にくっついて来た。

 「お前、頑張ったな…」

 かける言葉は少ない、自分でも知ってるから。

 何を言われても払拭出来ない、破壊される誇り。


 子供は…腰にしがみついたままなので片手で頭を抱える様に抱きながら、試合のあった体育館を出て、家路…駐車場まで歩く。


「お父さんもお前と同じだったなぁ…でも、今は子供と奥さんギリギリ養えるぐらい…と言っても団体職員とか言って給料激安でボーナスねぇし、このご時世ダブルワークしないと生きていけないけど…」


 て、何の話してんだよ…と思ったが、そもそも子供は聞いていかなかった。

 言葉では相変わらず伝えられないな。


 腰にしがみつく子供の頭を抱きながら、スマホの着信に気付く。


(お?先生更新したな、どれどれ…ほぉ、そうきたか…)


 NTR…寝取られ?寝盗り?彼女や奥さんの浮気なのかな?まぁそんな感じのWEB小説を読んでいる。

 実生活でそんな事を望んじゃいないが、見る人は多分、何かしら琴線に触れたからだと思う。

 それと、スマホの進化か、それとも全体的に良くなったのか、無料で見れる小説なのに面白い。


 そして俺は、そのサイトで家族にも友人にも言わず、黙々と小説を書いている。

 主にNTR小説を…、だ。


 世間じゃ歪んでるだ、頭がおかしいだ言われるかも知れないが、関係無い。

 何故なら俺から見れば、このNTRと言われるタグがある小説は、エロ漫画と違い、ただの裏切りの物語ではないからだ。

 

 しかし…歪み、歪みかぁ…俺はいつから歪んだんだろう?



 俺は思い出してみる。


 そうだな、子供の時に何度か引っ越しをした。


 小学校2年の時、そして中学1年、節目で引っ越すものだから、友達が少なかった。


 地元で固まる人達に入れる程、心が強くない。

 それは自分の子供も同じだった。

 習い事をしても黙々とやるのが好きで、団体で行うモノになると途端にポンコツになる。


 小学校の時は田舎に引っ越したから、東京者と言われて弾かれた。

 俺には兄がいて、兄は上手く田舎に順応しているように見えた。

 後から聞けば兄は兄で大変だった様だが、当事者と外から見える景色はまるで違う。

 引っ越した先で上手くやっている兄が羨ましく思ったし、同時に尊敬していた。

 そして、優しい兄だった。

 何も出来ない弟を同級生に自慢してくれる様な兄だった。

 俺は確かプロレスゲームで腰がカクッとなる瞬間に、ボタンを押す速さが速かっただけ。

 その時は嬉しかったけど、現実問題、一人で学校に行き、クラスでひたすら空気になる自分の時は情けないやら悔しいやら。

 そんなもんだから、ずーっと漫画読んでゲームばかりしていて、学校に本気で行きたくなかった。


【これ、いつまで続くんだ?】


 5年もいれば、気付けば友達は出来たけども、中学で引っ越したら連絡取らなくなるぐらいの仲だった。

 いや、その田舎は東京からすればほぼ端っこ。

 今後、会うことはないと思うと余計音信不通なる。




 中学でまたリセット、同じ様な状態と思いきや小学校と違いもっと悪質ではあった。

 小学校の時は絡まれて殴られたら殴り返した。

 泣かなければいつか勝てると、プロレスが好きだったのもあって我慢すれば勝てると思った。


 そして、中学校のイジメ…と思いたくなかったから、殴られたら殴り返し、悪口言われたらテメーかわ○ねとか言った。

 しかし…あれはイジメなのか?とにかく中学は格が違ったと言える。

 1人クソみたいな性根の腐ったやつに狙われて、殴り返すと4人から10人でボコボコ、地元の絆は熱かった。


【コレは…】


 その中の一部のクソが金を出せと言い出す、出すかよクソがと逆らうと、今度は有る事無い事言って仲間を呼び、身体の大きい地元密着型ヤンキーを使いボコる。結果、授業に出なくなった。


 部活も1年の時は良かった、3年と仲良くなり部活を頑張った。

 まぁ2年はマイルドヤンキーが多くあまり関わらないようにしたら嫌われた。


【いつまで…】


 しかしその2年が3年、つまり俺が2年になるといきなり処刑が始まる。

 そしてまた、地元繋がりだ。3年と1年は仲が良いから俺は後輩からはパシられ、それに逆らうと今度は3年の先輩からビンタ、それに対して睨みながら地面に唾はいたら競技道具でぶっ叩かれた。


 最初は学校に行かないで音楽を聴いていた。

 パンクロック、青春の音楽、若者の気持ちを代弁した様な音楽。

 不安定な残響の様なみたいなものを歌う曲。

 

 …………が、嫌いになった。

 流行ったからだ。

 俺を苦しめる奴らが聴いていたからだ。

 ブルースを聴いて、孤独の歌を聴いて、音楽しか友達がいない奴の気持ちを歌う歌手。

 その歌を聞いている奴らが、俺を無意味にパシり、ボコり、罵り、追い詰める。


 家に帰れば自分の家は兄の友達の溜まり場になった。

 皆良い人達で、色んな事を教えてくれた。

 兄は自分の世界を作ったんだと思った。


【続くんだ?】


 崖や、屋上の柵を越え、墜ちたら死ねる高さに立つ。

 日々死んだ顔になる弟に優しい兄は心配していたが、プライドのせいで言える筈がない。

 親は何事も好きなようにやりなさいと言う、自由を尊ぶ子育てだった、自由と言う闇に一筋の希望も見えなかった。

 兄も親も、俺から見れば凄かった。だから分かる筈もない。

 この時から今まで、気持ちが分かると言う言葉を信じた事も無いし心から使った事は、一度も無い。


 それでも死ぬ勇気は無かった、初めて泣いた。

 情けなくて泣いた。俺だけが死んで、追い詰めた奴らは普通に生きていく事に、悔しくて泣いた。

 ここま孤立して叩かれて来てなお、死ぬのが怖かった。

 

『あ…きっと、いつまでも、続くんだな』


 結局、中学と言う群れから逃げ、学校をサボり、家にはおれず、エロ本屋を巡り、ひたすらエロくなった。

 漫画、ビデオ、何でも良かった。ひたすら自分の為だけに生きた。性欲だけが存在証明だった。

 その結果、友達や地元の奴と上手くいかない変人同士で少しだけ繋がった。

 どいつもこいつも信用出来ないと思っていたから、一緒にいるだけだった。

 

 その中に、小説に出てくる間男イケメン(以下、マオイケ)みたいな奴がいて卒業直後に女を紹介してくれた。

 今だから思うが、このマオイケとおっさんになるまで友達だとはその時一ミリも思わなかった。

 何だがよく分からんが『お前の教えたら脈がありそうだから告れ』と言われて告ったら付き合えた。

 意味が分からない。

 ちなみにマオイケは学年でトップ3ぐらいに入る女に告りふられた。

 

 中学を卒業した直後で、彼女は劇団に所属していて大人と普通に対話する、そんな世界に足を入れている様な娘だった。

 当時の芋クセェ中学生女子にあって、ブランドの腰のくびれた様な首元まで襟のあるコートにショートブーツなんて履く、お洒落な娘だった。


『普段、どんな音楽聞いてるの?』

「ぱ、パンクとか?…ご、ゴイステとかハイスタとか?」

 嫌いになっていたが、流行っているので言った。


『○君、お洒落だよね?どこの服?それ、ミルクボーイだよね?』

「知り合いがくれるから…それを…」

 兄貴の友達は服飾関係やアパレルが多かったからお下がりをよく貰った。


『学校はどこ行くの?私は私立に行くんだ、遠いからちょっと嫌だなぁ』

「近くの公立…ギリギリ受かって、それで…」

 俺は多分、壊れていたから会話がヤバ過ぎた。

 それでも話しかけ続けてくれたのは彼女の優しさだろう。


 誕生日が近かった、だから感謝の気持ちを込めてプレゼントした。

 アロマキャンドルのセット、大した金額ではないが、これなら重くないだろう。

 

『うわぁ可愛いっ!こういうの好きなんだよ〜!大切にするね!』


 周りから見たら上手くいってるように見えるかな?


 マオイケは、彼女と幼稚園からの付き合いで幼馴染に近い関係らしく、色々教えてくれた。

 弟がいて兄弟仲がとても良いそうだ。

 だからか、俺が話そうとするとじっと待つし、それ以外の時はタイミングを見て、ボチボチ自分の話や色んな話しをする。

 多分、弟で会話が出来ない奴との耐性があったんだろう。

 電話でも何となく回数を重ねる度に無言も減っていた気がする。


 3回目のデート…と言っても近所をふらついただけだけど、帰りに送って行く時に手を繋いだ。

 マオイケが進めろ、話しを進めろ、エロススメロとうるさいからだ。緊張で震えた。

 たぶん手汗がヤバいと思ったが向こうが手袋していて助かった。そして。


「あの…き、キスし…て…良い?」

『うん…』


 そして、唇を当てるだけのキスをした。


『バイバイ!また、電話するね』

「うん、また…」


 クソみたいな俺でもこんな事があるのかという奇跡。

 だけど進むのが何となく怖かったのは別の理由だった。

 経験したこと無いから、手に入れた事が無いから、知らないから分からない。

 大人になれば分かるし、受け入れられる…言葉にすればとても簡単な事。

 この感情は…嫉妬、そして後悔と言う感情だ。


 俺はこの先の人生で、この感情は足を引っ張り続けるとは知らなかった。


 嫉妬…電話で聞く彼女の華麗な日常。

 自分の人生には間違いなく存在しない、レッスンと言う単語。

 養成所の先生はイケメンらしく、当時の言い方は忘れたが、今で言う所の彼女の【推し】らしい。

 そりゃそうだ。芸能の世界の人間だから。

 ダンスのレッスンで抱きしめられドキドキしたとか。

 極々普通の話なのに…おっさんの今なら笑って流せるし、嫁にも『それで一発やれたら勝ち組だぜ?』とかふざけて言えるのに…

 中学を卒業したばかりで、人生や人付き合いにおいては幼稚園児に近い俺にはキツすぎた。


 毎日オネイニーばかりしてゲームやって漫画読んで、ご都合主義に浸るだけのクズの俺。

 劇団の準主役がどうしたとか、今度レッスン見に来てほしい?とか、弟が会いたがっているとか、全部地獄だった。

 正確には地獄に感じる俺が地獄だった。

 

 そして襲い来る空虚…後悔か?

 もしかしたら初めてのキスは俺かも知れない。

 初めて付き合ったのが俺かも知れない。

 俺より素晴らしい男は星の数ほどいる。

 俺より素晴らしい男の話は聞きたくない。

 いつか比較する、そして気付く、アイツはクズだと。

 

 俺は…その時を想像するに耐えきれない。


 だから逃げた、連絡を一切取らない、電話に出ない。

 逃走する、家出とまではいかないが、連絡が取れないような微妙な失踪を繰り返す。


 そして俺は、高校に入るまで逃げ続けた。

 もう、何もかも嫌だった。

 叩かれて、逆らい、潰され、孤立した中学の記憶は辛すぎる。

 彼女は中学の同級生、だからそれを知る人も嫌になった、何もかも嫌になった。

 マオイケに言われる。

【心配しているぞ】

【何か悪い事してしまったかも知れないと心配してたぞ】

【一回ちゃんと話したいそうだ】


 綺麗な事を言わないでくれ、全部俺のクソな回路が生み出したクソ思考のクソ結果だ。

 だから彼女にも関わりたくなかった。

 俺と彼女は違う…だから無理だと言った。


 マオイケは思ったよりちゃんとしてて、勝手に話をつけて終わらしてくれた。

 こうして彼女との付き合いは終わった。


 後から聞いた、彼女が言っていたそうだ。


【釣り合うか釣り合わないか、釣り合わない事を勝手に自分で決めないで欲しい】

【自分が長女だから貴方に関係する年上の人達に憧れたのは確かだけど、貴方に魅力が無いとは思っていない】

【幼馴染(マオイケ)や貴方の家族、その友人達から、貴方は『良い奴』『優しい奴』と言われ、外見も良い方だと思う、だから、それだけの自信をもって欲しかった】


 当時は聞いてゲロが出そうだった。

 これ以上貶めるのはやめて欲しかった。

 ちなみにそれから数年後にも再開したが、それでも走って逃げた。

 運悪くマオイケも居て、マオイケを置いて逃げた。

 言い訳しまくって、俺をノイローゼ扱いしたもののお前マジひでぇやつだな、飯奢れと言われ、奢ったな。


 後からだから、おっさんになってからだから思う。 

 

「ズレた厨二病だったなぁ…結婚までそんな感じだったけど」


 そんで…高校に入ったんだっけなぁ。

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