ラブコメ主人公には負けない!
@ruice
第1話
「ふぅ…」
俺、軽井沢蓮は読み切った漫画は本棚にしまいそっとため息をついた。俺が読んでいたのは恋に時間は関係ない!、通称・恋時だ。主人公である才馬修が高校に入るところから物語が始まる。彼には中学から一緒である両想いの姫乃雪という女の子がいた。しかし、彼らが入学する恋時学園には彼が幼い頃夏休みの間に仲良くなった思い出の少女・星宮真希と再会することになる。夏休みの思い出を忘れきれていなかった修は2人の間で揺れ動く恋心で葛藤して…というのがこの漫画の大筋だ。そしてこの漫画は今日で最終回を迎えた。でも、
「姫乃に報われて欲しかったな…」
俺が好きだったのは姫乃雪だ。さらりと流れる長い美しい銀髪に少しキリッとした目元。さらに瞳は透き通るような青色だ。体の起伏は少ないがそこもまた魅力的と言えよう。しかし、彼女の美点は容姿だけではない。ただのか弱い女の子ではなく、自分の意見をしっかり言えるところ、自分を持っており他人には優しい。上げればきりがない。そんな彼女が修と真希の告白シーンを見てしまい1人寂しくすすり泣くところは心が抉られるようだ。
「結局、修は過去の恋をずっと忘れられなかったんだな。」
そう呟くと俺は明日の準備を始めた。明日は俺が入学する高校の入学式だ。実は俺が入学する高校は、恋時の聖地だったりする。名前こそ全然違う海沢高校というところだが、その形、構造、周りにある建物は恋時学園そのものだ。当時中学生の俺の成績には厳しい高校だったが、恋時好きとして執念で勉強し、合格することができた。漫画のようなことが起きるのを期待するわけではないが、好きな漫画の聖地に通えるというのはとても嬉しい。俺ははやる心をおさえながら眠りについた。
翌日、俺は小学校からの友達である三石陵、南川空と一緒に海沢高校までの道を歩いていた。
「いやー、まさか合格できるとは思わなかったな今でも夢みたいだ。」
俺がそういうと、陵は笑いながら答える。
「あの時のお前、何か執念じみてたもんな。何かに取り憑かれたかのような。まああんだけ勉強してたんだからそりゃ受かるだろ!」
「そりゃあの憧れの恋時の聖地に通えるんだから頑張るに決まってるだろ!本当に、死ぬ気で頑張って良かった…。」
俺がそう答えると空が不思議そうに聞いてきた。
「蓮ってなんでそんな恋時学園に思い入れがあるの?」
「なんでってそんなの当たり前だろ、あの恋時だぞ?お前も陵も俺がどれだけ恋時を好きか知ってるだろ。何を今更聞いてるんだよ。」
俺がそういうと陵と空は顔を見合わせ不思議そうな顔をしていた。あれだけずっと言ってたのにどうしてそんな不思議そうな顔をしてるんだ?でも俺はさして気を留めることもなくそのまま2人と一緒に入学式を行う体育館へと向かった。
体育館についてからも、俺はずっと興奮が冷めないままでいた。何もかもあの漫画と同じで興奮せずにはいられなかった。俺が落ち着けていないのを見て陵は小声でもう入学式始まるぞと俺を咎めた。俺はそれを聞いて落ち着きを取り戻し、静かに入学式が始まるのを待った。
入学式が始まるとまずは校長先生からの挨拶が始まった。
「新緑が鮮やかな春爛漫の本日、ここに恋時学園の入学式を挙行できますことは大きな喜びでございます。」
俺は耳を疑った。
「今、恋時学園って言った…?」
ありえない。ここは海沢高校のはずだ。なのになんで…?隣にいる陵に小声で聞いてみる。
「なあ陵、ここって海沢高校だよな?」
俺がそういうと陵は怪訝そうな顔をして答えた。
「お前何言ってんだ?ここは恋時学園だろ?お前朝も言ってたじゃないかここに来るために頑張ったって。」
違う。俺は恋時学園の元である海沢高校に入学するために頑張ったのだ。意味が分からない。夢でも見ているのか?俺は再度陵に声をかけようとしたが陵は話す気はなさそうで、指をステージの方に向け前を見ろと促してくる。俺は何もすることができずにただただじっと座っていた。
ある程度のプログラムが終わり、新入生の言葉となった。もうそろそろ入学式が終わる。俺は早くここから解放され1人で考える時間が欲しかった。しかしそんなことは叶わずさらに大きな衝撃が俺を襲った。
「あれは…星宮真希…?」
間違いない。遠目からでもわかる圧倒的な存在感。いや、その前にこのシーンを俺は見たことがある。確かこの後…
「お前は…!あの時の…麦わら帽子の女の子!」
突如、近くで大きな声が聞こえた。声の主は、
「才馬修…!」
これは恋時の冒頭シーンだ。高校の入学式で彼らは意図せず出会う。ここで修と真希が出会うことにより恋時の物語はスタートし、姫乃は悲しい結末を迎える。
「!あのときの!やっと会えた…。会えると思ってなかった。どうしてここにいるの?」
修に気付いた星宮はそう答えた。
何度も見たこのシーン。一言一句なにも違わない。まるであの漫画をもう一度読み返しているみたいだ。俺は混乱することしかできずただ呆然と彼らを見ていた。
ラブコメ主人公には負けない! @ruice
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