記憶旅行記〜キオクという猫〜

キオク

空き箱シティA地区編

女工は瞼を下ろした。


脳内に、辺りの地形データが立体的に

マッピングされ自動保存したことを

完了の鐘とともに確認した。


女工の名は8056番。


管理された製造ナンバーがそれだ。


工場から脱出する際に、

右腕を撃たれた。


肘の辺りから黒い液体が滴る。


逃げ切ったあとで腕は切り離し処分するのが得策だろう。


バイクの後ろに、猫型の相棒がちょこんと座っている。


何かしらの方法で

キオクの気を逸らしコアを奪うことが

出来れば、8056の役目は

ここで終わる。


あとは···野となれ海となれ。


その人物は、

すみれ色のスポーツカーに乗ってやって来た。


運転席側のガルウィングが開くと、

神々しいほどの光量を放つ者が降りて来た。

銀色のスーツ、漆黒のブーツ、

白いマント、金色のベルト。


コツコツと音を立て、

その人物はこちらへと歩いて来る。


キオクと右腕を失った8056は、

顔を見合わせた。


「やあやあ。ごきげんよう」


「あんた誰...というか何なの?」


「これは失礼。わたしはムーンヘッドと申す。

貴方は見たところ手負いと見受けられるが」


「これはさっき工場で撃たれて...」


キオクが警戒のフォームへシフトした。


「どれ、わたしが治してしんぜよう」


「もう断線して関節も壊れてるから

良いわよ」


8056がぶっきらぼうに言う。


「わたしなら治せる。信じなさい」


キオクは、いつでも爪で応戦出来るように身構えていた。


ムーンヘッドと名乗る謎の人物は、

8056へ近付いて行く。


「どれどれ...あぁ、

ワイヤーも切れてるね。うん。

これはシティに戻らないと厳しいな」


ムーンヘッドが発光している車へ踵を返し、2歩3歩進んだ時。


爆発が起こった。


「工場の方かしら...?」


8056が片腕だけで腕組みしていると、

キオクがポシェットから

望遠スコープを取り出した。


「良いのあるじゃない」


8056がレンズを覗いたが、工場のあった方角に煙は立っていない。


ムーンヘッドが車からこちらへ戻って来た。


「提案なんだが、その腕の状態では

あの単車は操れまい。

わたしの車でシティまで来ないか?」


「本当に治せるの? 正直、怪しいんだけど...」


「大丈夫。シティに来れば、替えの腕が手に入る」


「ここからどのくらい?」


「うんとな。わずか5千光年ばかりだね」


「さあバックシートに乗りたまえ」


言われるまま、キオク達はスポーツカーに乗り込んだ。


全員がシートに収まった。

ムーンヘッドがフロッピーディスクを

ダッシュボードの

四角い箱へ挿入すると、

4本のタイヤが引っ込み

小型のジェットエンジンが現れた。


「シートベルトを締めてくれ。

猫は彼女に掴まって」


猫じゃない、と内心キオクは思ったが

表情には出さないように努めた。


「着いたら起こしてね」


8056は、早々にスリープモードに入って動かなくなってしまった。


瞼を開けた時、

目の前にかつて

"空き箱"と呼ばれた都市が

広がっていた。


そしてキオクは思考した。


この車はもしや、淡雪のプロトタイプ

なのかにゃ?


ムーンヘッドの案内で、

空き箱シティA1地区に隣接する

電子ゲートにて仕切りがある"向こう側"

笑い袋タウンB2地区の存在を

聞かされたキオク達。


「あのエリアは絶対に近付かんほうが身のためだ」


と再三釘を刺されたものの、


キャットロイドでも怖いもの見たさという性はあるらしく

(あくまでも内蔵された猫格ソフトウェアの種類による)

キオクにとって

そこは未知の世界であり、

シンプルに興味を惹かれた。


行く所があると言うムーンヘッドとは、

シティA地区の電子ゲートの前で

別れた。


「じゃあな。縁が有ればまた。

良いアームが見つかるといいな」


「あんがと。次会った時は敵同士

かもね」


ムーンヘッドは三日月のような微笑を

浮かべ目が覚めるような白いマントを

翻し、薄紫に輝く愛車と共に

去って行った。


キオク達は、まずシティで燃料を

補給することにした。

バイオ燃料駆動なので、CO2は出ない。


電子ゲートを偽造IDを用いてパス

した。

その際おそらくゲートの監視カメラ

に記録されたのでシティの管理センターに彼らのデータが保存された模様。


「用が済んだらすぐ失せるわよ...」


キオクは、ぼんやりと内蔵された

思考回路で考えた。


「バイオ燃料なんて、高価なもの

売ってくれるかなぁ」


「大丈夫よ。力ずくで頂くから」


その時8056の右腕があった場所に、

トランスフォームしたキオク自身が

彼女のアームとなって現れた。


「?!」


キオクは8056の思考回路に

直接語りかける。


「あなたの腕となり、力となるよ。

さあ、行こうか」


月頭の、

「ポイズンに感染したヒューマンに

スピリットをつけろ」


とのワードをハートに

キオクと8056は、スピリットをタイトに

シティへステップ·イン。


発生源アンノウンポイズン

に感染ドゥ、


生物、無生物(ロボット)関わらず、


デンジャーをインアディクション

して来るらしい。


ナウはピーク時よりサイレント化しているらしいがリラックスはアイキャント。


エアーをスリムカーが悠々と

フライング。


「サイレントかつオートパイロット、

ビコーズテイクケア」

と月頭は忠告していた。


目ぼしいデポットにアライブしたら、

キオクがセパレートして気を引くビトウィーンに、8056がフュエルをスティールするプロセス。

シュッビー。

バイザウェイ、


象牙の電話にマニュピレイトされた

ブランキーボックスシティでキオクが

ハートあらず状態のピープルから

気を引くシングは

ベリーインポッシブルに近い。


どんな作戦ストライク?


倉庫の奥からヒューマンが1.2。


キオク猫タイプ

リターン尻尾ストレッチ。


ヒューマンのうちのファットで帽子被っているほうが、それに気づき


「ヘイ。ここにゃドライカツオ

は無ぇぞ」


その間8056が燃料カン確保。


キオクアゲイン、右腕に変形

カンを抱え逃走。


その様子バックヤードのカメラに

バッチリ写って。


「早くヒューマン気無いポイントへ」


キオク達ミッションインポシブった。


それと引き換えにアレストレベルも

上昇。


「ネクスト新しいビークル探そ」


適当なカーショップから、

US産SUVサーチ。


辛子色のバディを手に入れ、


電子基板に月頭からくすねた


フロッピディスク挿入した。


たちまちイグニッションファイア。


キオク達、ブランキーシティの

アウトサイドにヘッドオン。


"ラムネ色の目眩"


マスタード色の車のギアを入れると

ごとん、と走り出した。


右腕に変形したキオクが


「どこに向かってんの」


「さぁ、街の外れじゃない?」


キオクが微量な潮の匂いを感知した。


「パフシック·オーシャン」


「なに、太平洋?」


「それそれ。すこしだけ海の匂いがする」


「あーラムネでも飲みたいね」


8056は、かつて人間だった頃を

思い浮かべた。


「僕はドライカツオ齧りたい」


キオクも、かつて猫だった頃を

思い浮かべた(今は腕型だが)。


いつの間にか

スピードメーターの針は、

80キロを指し示していた。


「アウチ、崖!!」


キオク達を乗せた車は轟音を立て

真っ逆さまに

濃い暗闇を落ちて行った。


"OLD NAME"


どこからか声が反響して聞こえる。


「クリッシー...」


誰...? 昔捨て去った名前で呼ぶのは?


心配しなさんな。

灯火を点けていれば、

うす暗い空洞の中でも

大丈夫。


火を絶やさなければ。

薪を焚べ続けることを止めなければ。


「クリッシー。

もう記憶を

捌くのは止めなさい。

それは心をすり減らすだけだ」


父さん...わかっている。

でも、生活の為にやってるのよ。記憶を切り売りして···。


短い夢はそこで、

まるで映画のフィルムが途切れたように終わった。


dad.

今はこじんまりした相棒が

側にいてくれる。

小さいけど頼りになるの。

いわばモデスト·ブラザーね笑


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昔クリッシーという女性だった

型落ちのロボットは

そっと瞼を上げた。


すると目の前に

最新型キャットロイド、

キオクがこちらを心配そうに見上げ、

平らな石の上に座っているのがぼんやり見える。

焦点がしばらく合わない。


「モう起きないのかと思っタ」


「ン。。。どれくらい寝てた?」


「タぶん5時間と20分47秒くらいカナ」


「車は?」


「ヲ釈迦ったヨ」


「また移動手段を手に入れないとね」


「soの前にこの谷から脱出しないト」


「soね...そうハウスば...」


8056は、適当な科白を探していた。


「キオク。そのコア·パーツで

体を調整してみてくれる?」


「ワかった。装備してみるネ」


第一部




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