第52話 これからのこと

 俺の家に着いた。幸い俺の家族はみんな外出中だった。


 ひとまず美智香にシャワーを浴びるように言った。

 美智香はあの戦闘が起きた会場で砂ぼこりなどもかぶっていたからだ。


 女性服を持ってなかったのでタンスからこっそり拝借した母の服を美智香に着せた。


「さて、どうすっかなー」


 俺の部屋に淳と岸野さんと美智香が集まった。モモ太は俺の机の上にいる。


 アイドルであのコンサートの出演者だった美智香が俺の家にいるこの状況はまずいだろうが、今美智香をあの場所へそのまま帰すわけにもいかない。


「戦闘が終わったっていっても、これからどうするんすかね」


 魔王を倒して、とりあえず俺達の目的は達成された。では次は何をすればいいのか。


「うーん……。とにかくあの場所から離れることでいっぱいだったしな。これからのことを考えないとな」


 俺達がこれからどうすべきか頭を悩ませたところだ。


「うむ。ではそれについてわしが教えよう」


 ぽんっ、と煙が舞い。フィロ神が俺の部屋に現れた。


「お前達の勇敢な戦いにより、ロージドは倒された。この世界を守ったのじゃ。お前達の役目は終わった。勇者としての責務は果たしたのじゃ」


「そうか、俺達が前世のことを思い出したのは魔王をどうにかする為だったな。じゃあその魔王がもういないんだから俺達の役目も終わったということか」


「そうじゃ。お前達はもう戦う必要はない。この世界は魔王ロージドの脅威から守られ、もうゲートが開くこともない。ここはもうフィローディアと繋がることのないのじゃ」


「では、私達がもう戦う必要はないということですね」


「その通りじゃ。お前達が戦うべき敵は消滅したのじゃ。この世界は二度とあそこと繋がることはない。お前達はもう何もする必要はないのじゃ」


 俺達の魔王を倒すという目的は達成されたのだ。だからもう何もしなくていいというわけだ。


「では、これからのお前達のことだ」


「これから?」


「魔王を倒したことにより、お前達は勇者としての役目を終えた。魔王を討伐したのだからもうこの世界で勇者として活動することはないだろう。これからはこれまで通り、普通の人間として生きていくことになる。これまで通りの人生で過すごし、そのまま一般人として生きればよい」


 戦うべき敵がいなくなったのだから、戦う必要がないということは、もう俺達は普通の日本人の高校生に戻っていい。そういうわけか。


「これまで通りに普通の人間として生活できる。となると、お前達に聞かねばならぬことがある」


 フィロ神はこほん、と咳払いをした。


「あの世界との繋がりも途切れたのだからお主達は勇者としての能力は失うことになる。魔王と戦う為に能力を覚醒させたが、それはもう使えぬぞ。勇者の姿に変身することもできぬ」


 能力とは俺の光や淳の風に岸野さんの魔法のことだろう。


「えー。せっかく手に入れた力だったのに、もう使えないんすか?」

 淳は残念そうな声で言った。


「なんか強くなれた気がしたのに。これからも色々役に立つと思ったのに」


「だからこそじゃ。もう普通の人間となったお前達にはもう使いどころもない。このままこの力を持っているともしもその能力を使ってるところを人に見られたらどうなる? よくないのじゃ」


「あ、確かに……」


 勇者として魔王を倒す為に覚醒した能力であって、今後はもうその必要もないということだ。


 下手にそんな能力を持っていたら普通の人間ではないと怪しまれる。なので消えるのだろう。


「そしてもう一つ。魔王を撃破したのだからお主らにあの世界の記憶など必要ないだろう。魔王との戦いをする為に記憶を覚醒する必要があったが、それももう終わった。お前達にフィローディアで勇者として生きた記憶を消すという選択肢がある」


 それはつまり、もう勇者としての役目が終わってこれからは普通の人間に戻るから、俺達にその前世の記憶は必要ないということか。そんなことを覚えていてもこの世界では何も役に立たない。


「お主達にとっては魔王に敗北したあの絶望的な最後の記憶が残ってるのは苦しいことではないのか? そうでなくとも、お前達はこの世界では記憶を閉ざして元々普通の人間として生きていたのじゃから、前世の記憶など不必要じゃ。全てを忘れ、これまで通りに過ごせるというわけじゃ」


 俺達の前世は確かに最後は辛く悲しい記憶だった。

 姫を助けるという目的も達成できず、敗北して世界を救うこともできなかった。

 そんなものを覚えていたって苦しみを引きずるだけだ。


 あの世界での記憶を全て消して、このままこれまで通りに普通の人間として生きていく。


 元々俺達は普通の日本人だったのだから、この世界では勇者の記憶など必要ない。というわけか。


「うーん……」


 俺は少し考えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る