第48話 逆転のチャンス
しどろもどろになりながら、美智香はマイクを手に取って唄い始めた。
「まっしろな光に包まれて、私は目覚めたらお姫様♪」
美智香は歌い始めた。その歌声がマイクにより拡張され、ホール中に響いた。
こんな状況でも緊張せずに歌えるのは美智香がプロの歌手ならではだ。
「王子様にー手を握られてー。二人で歩いたー」
この状況では実に場違いなアイドルソングだが、ある変化が起きた。
美智香の歌声が流れ、それが耳に入り、俺の中に染みる渡る感覚がする。
これまでのダメージの痛みが緩和され、俺の中に力が湧いてくるのを感じた。
絶望的なこの状況での精神的な苦しみも歌声によって癒される感覚がする。
共鳴しているのだ。俺の勇者の力と美智香の歌姫としての力が。
「あたーしの、キスはメロンのようにあまーい、あなたのほっぺにー♪」
俺の身体に力が湧く、そんな変化と共に、美智香が白い光に包まれた。
「なんだ!?」
美智香に起きた予測できなかった謎の現象に俺は驚いた。
その光は美智香の全身を包み込み、まるで渦のように周囲に回っていた。
光が収まると、美智香の姿が変わっていた。
桃色の丈の長めのドレスに美しい金髪、額には宝石がはめ込まれている黄金のティアラが輝いた。
「何、この姿!?」
美智香は唄うのを止め、自分の姿が見たこともない衣装になっていて驚いていた。
「美智香が変身した……!? あの姿はフィローディアのミゼリーナ姫!」
俺達があの世界での勇者パーティの姿に変身したように、歌の力なのか美智香もあの時の姿に変身したのだ。美智香が本当に歌姫として覚醒したのだ。
「そのまま続けて唄え!」
俺はそう叫んだ。
自分の姿に戸惑っているも、美智香は了解したのかすぐに続きを唄い始めた。
「あなたの姿を見れば、胸がとってもキュンっとするのー♪」
美智香の歌声が響く中、俺は仲間達にアイコンタクトを送った。
(ジュディル、風の魔力を溜めて放出させろ!)
(ラミーナ、加護の魔力を最大限にして使え!)
事前に決めておいたいざという時のサインだ。
二人も「了解」とそれぞれの能力を発動させる為にその姿勢に入った。
俺にやることは決まっている。
フィロ神に授けられた、魔王を仕留める時に使えと言われたあの剣を発動させることだ。
俺は両手で剣のグリップをしっかり握り、あの剣を出現させる為に強く祈った。
グリップが熱くなるのを感じる。そして俺の精神力が剣に注がれる。
「剣よ、今こそ力を!」
俺がそう叫ぶと、剣は七色の輝きを放ち剣の先端はまるで稲妻の形に変形した。
あの時、フィロ神に授かった一回だけ使える武器だ。
俺とジュディルとラミーナの能力、そしてミゼリーナ姫の歌の力が一体化する。
俺の勇者の光の剣、自然に生きる風の一族のジュディルの魔法、全てを包み込む癒しのラミーナの加護、歌姫のミゼリーナの歌声。俺達四人が揃った時に発揮される力が一か所に集中するのだ。。
勇者の力は王家の姫の歌声で覚醒する。
ホール内に目一杯の光が放たれた。
四人の力が集まって、それは一斉に光り輝き、剣の刃先はさらに巨大化していき、横にも幅広く、縦にももはや腕では支えきれない天井にまで届くかのような長さにまで伸びた。
それは十分、ロージドの巨体にもかなう大きさだ。
「これが……俺の最強の剣だあああ!」
俺はその長い剣を一気にロージドに向かって振り落とした。
「くらえええ!」
ばちん、と音がするかのようにその光の剣はロージドに命中した。
ロージドは押し潰されるように、剣を受けたのだ。
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