第47話 どうすればいいか

「なんだこの小さいドラゴンは!」

「このっ、このっ!」


 ポフィはロージドに噛みつくのを止めない。


 勇者を仕留めるつもりだった攻撃が阻止され、ロージドはポフィを睨んだ。


「お前から始末してやるわ!」


 すると、ロージドはポフィに拳を向けて、そのままポフィの小さい体をぶっ飛ばしたのだ。




ポフィはびたん、と勢いよく壁に叩きつけられた。


「ポフィ!」


 俺はすぐさまポフィに駆け寄った。


 ポフィはしゅうう身体が縮んでいき、ミニドラゴンの姿から小さいハムスターのモモ太の姿へと戻っていく。


 どうやら弱ったことにより変身が解けてしまったらしい。それだけ致命傷ということだ。


「ポフィ、いやモモ太、しっかりしろ!」


 ハムスターなんて小さい身体はもろい。少しの衝撃で内臓が破裂したり、骨が砕ける。


 先ほどまでミニドラゴンの姿だったとしても、今はハムスターに戻ってしまった。


「僕……少しでもご主人のお役に立てて嬉しいです」


 か弱い小さな声でモモ太はそう言った


「どうかお姫様を助けてください……」


 そのままモモ太は動かなくなった。つん、と突っついてもぴくりともしなかった。


「ロージド……許さねえ……!」


 ペットであり相棒だった仲間がやられて、俺は怒った。


「ふん、その畜生ごときが勝手にやったことだ。我にたてついたのが愚かだった」


「なんだと!?」


 相棒を馬鹿にされたようで、俺は怒りの頂点に達した。


 しかし、今またロージドの元へ突っ込んでいっても同じだ。


 相手にはダメージすら与えられない。


 相棒をやられた怒り、この状況をどうするかの切迫感。何かいい方法がないかと俺は試行錯誤した。


 すると、目の前の椅子の残骸の影にあるものが転がってるのを見つけた。


 椅子の残骸の下に落ちていたのでスプリンクラーの水で濡れていない。


「これは……マイク?」


 コンサートが始まる時に美智香が持っていたものだろう。


 戦闘が始まり、会場が大きく揺れたことでそれがステージから落ちてここまで転がってきたのだ。


「こんなもの今見つけたってどうにもならねえよ……。いや、ん?」


 こんな状況でこんな小道具が使えるわけない。マイクなんて声や歌を拡張させるだけの道具だ。


 戦いには使えない、と普通なら考えるはずだが、俺にはある案が浮かんだ。


 ここはコンサート会場。歌を披露する場所だ。このイベントのメインである出演者の美智香がここにいる。美智香は歌を唄う為にこの日にここへやってきた。


 美智香はかつてフィローディアの王家に生まれた姫であり、その歌声は人々の力を増幅させる。


 フィロ神は言っていた。勇者の能力は歌姫と一緒にいるとさらに力が増す、と。


「そうだ!」


 どうすればいいかが思いついた俺はそのマイクを掴んだ。


 ホールの隅で水に濡れないよう屋根になってる場所の下にラミーナと一緒にいる美智香の姿が目に入った。


 俺はマイクを掴んで美智香がいる場所に全速力で走り、ジャンプで飛びながら美智香の近くへと移動した。


「美智香、これを受け取れ!」


 そして、マイクを思いっきり美智香の傍へ転がした。


 ゴロゴロ、とマイクは横に回転しながら床を滑り、美智香の元へと転がって行った。


「えっ……あっ、うん!」


 言われるがままに美智香はそのマイクを拾った。


 なぜこの状況でこんなものを受け取れというのか。


 マイクなんてどう見ても戦闘に使える武器などではない。なぜこんなものを今渡したのか。


 何をすればいいのかと状況が読めない美智香に俺は叫んだ。


「美智香、そのマイクで大声で唄え!」

「え、なんで今そんなこと……」


 激戦が行われてる真っ最中に突然唄えと言われ、なんのことかわからない美智香は戸惑った。


 この状況で呑気に唄えと言われたら、それは混乱するだろう。


 命が奪われるかもしれないこの状況で、歌を唄えという場違いなことを命令されたのだ。


「いいから歌え! いつもみたいに、テレビに出てる時みたいに唄え!」

「で、でも何を……」

「なんでもいい。お前の持ち歌でもいい!」 


 こんな言い方をしただけでは彼女は何を唄えばいいかわからないだろう。


 この状況で、一体なんの歌を唄えというのか。


「じゃあコンサートが始まる時、一番最初に唄ってたお前の新曲を唄うんだ!」


「えっ、新曲って…『私の甘いメロンのキス』を!? あれをこの状況で唄うの!?」


「そうだ! それでいい!」


 この状況でアイドルの歌である、しかも甘々なラブソングを歌うなんて場違いと感じるだろう。


 しかし、これも作戦なのだ。


 歌姫の力は勇者達の力を上げる。あの世界では姫が意識を失ってしまったのだからできなかった。


 今、美智香はしっかり意識がある、その上で歌を唄う環境も揃っているのだ。


 一か八かのかけだ。もしも美智香の歌声が今の俺にも効くのならば、抑え込むことはできるかもしれない。

 あそこでは勇者の家系は王家の姫の歌声で覚醒するという言い伝えもあった。

 もしもこの作戦がうまくいけば俺達に勝利の可能性が見えてくるチャンスだ

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