第43話 コンサート当日
時間は流れ、あっという間にコンサートの日がやってきた。
「ここが平和楽ドームか」
俺達はこの町では大型施設であるコンサート会場となる場所へやってきた。
東京にあるコンサート会場などはテレビで観る限り、もっと大きいだろうが地方のドームはそれほどまでではない。
しかし、それでもこの町の建築物では大きい建物だ。
ドームの周囲には今日の観客であろう人々が大勢集まっていた。
ペンライトの用意をしている者や「美智香LOVE」と書かれたうちわを持ってる者、美智香のイニシャルが入ったシャツを着てるもの、バンダナと眼鏡をかけたいかにもオタクっぽい客もいる。男性客がとても多いが、結構若い女性もいる。
人気アイドルが地方にやってくるということは、この町でも特に注目されているイベントだ。
「ここが俺達の戦場になるってわけか」
「本当にこんな場所に魔王が降臨するのでしょうか」
「信じられないっすよね。周りはみんなこんなに楽しそうなのに」
ここの観客たちはこれから何が起きるかを知らない。
好きなアイドルのコンサートという華やかなイベントとして来ているのだからみんなニコニコしている。
アイドルのファンとして、今日のコンサートを楽しみにしていた者も多いはずだ。
まさかこんな平和な場所に、これから魔王が降臨するだなんて誰も知らないのだ。
「いいか。俺達がこれから魔王と戦うだなんてそんなことここにいる人間には知られないようにするんだぞ。魔王が降臨して戦いになればフィロ神様が結界を張ってくれる。観客やスタッフを外に避難させれば、もう誰も戦場には入ってこれなくなる。俺達だけの戦いになるんだ」
「ちょっと不安ですけど……私達しかできないことですしね」
「ここまで来たらもう引き返せないわけだし、頑張ろう」
俺達は覚悟を決めた。これから始まるのは再び勇者としての魔王との戦いだと。
開場時間になって、ドームの中に入ると、通路にも客がたくさんいた。
館内マップを見ると、複数のホールがあるが、コンサートが行われるのはこのドームで一番大きい中央ホールだ。
早速そのホールに入ってみると、観客席には大量に椅子が敷き詰められていて、観客たちは自分の持っているチケットの席番号を確認しながら、それぞれの席に座っていた。
早速コールの練習をしているファンや、ペンライトの準備をしている者。
美智香の名前がプリントされたタオルを首にかけているもの、大きなうちわを構えているも。
それぞれがコンサートを全力で楽しむ準備をしている。
周囲から楽しそうな声も聞こえる。
「今日、美智香ちゃんは何の歌を唄ってくれるんだろうな」
「そりゃ新曲の「私とメロンの甘いキス」だろ」
「俺、その曲のCD発売日にすぐ買ったわ」
そう語る男性ファン達。
『私とメロンの甘いキス』という歌はいわゆるラブソングだ。王子様のような魅力ある男性に出会った女性が男性と恋愛関係になり、キスをするという歌詞のアイドルソングである。
最近リリースされたばかりでCDの売り上げも順調な流行りの曲だ。
「美智香ちゃんを生で観るの初めてー」
若い女性ファンの明るい声も聞こえる。
「ね。いつもテレビだけだもんね」
「生歌、超楽しみだよね!」
これから始まる戦いのことなんて知らず、観客達は賑わっていた。
「とりあえず、俺達も自分の席に着こう」
ホール内の通路を通り、俺達は自分のチケットに印刷されている席を目指した。
俺はC1の席で一番端っこだ。
続いて淳はC2、岸野さんはC3だ。
モモ太は俺のポケットにいる。本来は生き物の持ち込み禁止なのでこっそり隠れているのだ。
「うう、いざその時間が近づいてくると緊張してくるっすね」
「大丈夫だ。この日の為に俺達は色々やってただろ。ここで弱音を吐いたら終わりだ」
「いよいよ始まりますわね」
「ぼくもご主人の服の中で待機です」
俺達は魔王降臨の時間にむけて準備をした。
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