第12話 ターゲット発見

「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」


 ウェイターが明るい声で話しかけてくる。よし、尾行だなんて思われてない。


「三名です」

「ではお好きな席へどうぞ」


 俺達はターゲットがいるテーブルが見える席についた。


「あの子がそうか」


 和美ちゃんと思われる女の子はカフェの端の席に座っていた。


 岸野さんのいう特徴通りの派手な衣服とアクセサリーをつけてる、そして茶髪にメッシュ。顔はメイクをしていて少し大人びてるが顔は誤魔化せない。写真と一致している。間違いなくあの子だろう。


 カフェの中は若い女性でいっぱいだった。

 休日でここへ来てるであろう俺達と同じ年頃の女性客、親子連れ、そして男女カップルでデート中であろう客。それぞれがテーブルで談笑しながら楽しんでいた。


 賑やかな店内なので中学生の和美ちゃんが一人でこのカフェに来ていても誰も気にする者はいない。


 和美ちゃんはメニューを見た後、ウェイターを呼んで注文をしたらしく、そのまま注文を持つからかスマホをいじり始めた。


「なんでスマホを持ってるんだ? 宮下さんの話では連絡が全くつかないと言っていたのに」


 スマホを持っているのだとしたら、なぜ家族からの連絡がつかないのか。


 それとも以前使っていたスマホではなく、新しいスマホを買って契約したのだろうか。

 なぜ中学生がそんなことまでできるのか。保護者の関係もなしにそんなものを持ってるだなんて。


「誰かに買ってもらったんじゃないっすかね。家族には見つからないように、自分用ってことで」


 確かにその線もある。自分がこれまで使っていたスマートフォンが家族との連絡に繋がってしまうのなら、それは使うのをやめて別のスマホを所持することにしたのでは。


 しかも保護者の同意なしだとなると中学生は一人で携帯電話の契約はできない。


 そうなると、保護者ではない誰かに与えられたものかもしれない。例の一緒にいた男とやらにでももらったのだろうか。


「おっと、俺たちは普通の客のふりをしないとな」


 このままここにいるとなれば、ただ座っているだけでは店員にも怪しまれるだろう。


 あくまでも尾行ではなく、普通の客としてここにいるふりをしなければならない。

 何も注文しないのは怪しいので俺達も何か注文することにした。


 テーブルにあったメニューを開くと、そこには華やかなスイーツの写真がたくさん載っていた。


 このカフェで名物のパンケーキにワッフルやクレープなど、いかにも女性が好みそうなメニューばかりだ。


「すげえ、いろんな種類のパンケーキがあるっすね。どれがいいっすかね。この苺たっぷりパンケーキもうまそうだし、チョコバナナアイスなんてのもあるっすよ。ベリーソースなんてのもあるし、こっちはマンゴーソース!」 


 目を輝かせて夢中でメニューを見る淳。

 お前、ここに来てる目的ちゃんとわかってんのかよ。


 確かに俺と淳は普段パンケーキカフェなんてオシャレな場所には行かない。


 男子高校生といえばハンバーガーショップなどファーストフード、もしくはファミレスでカフェといえばせいぜいスタバのようなチェーン店のカフェだ。


 こういう女性客が中心のオシャレなカフェには男子高校生同士ではあまり行かないのだ。


「せっかくのパンケーキカフェですもの。一瀬さんも何か注文したらどうでしょう」


「そうだな」


 しばらくメニューを見て何を注文するかを決めた。


 俺はコーヒーとシンプルなプレーンパンケーキ。

 淳はココアとチョコバナナパンケーキ。

 岸野さんは紅茶とストロベリーパンケーキを注文した。


 しばらくすると、それぞれのパンケーキがテーブルに来た。


 俺のはシンプルなパンケーキにバターが乗せられ、メープルシロップの小瓶が付いていた。

 そして生クリームが添えられていて、オレンジやブルーベリーにキウイなどの刻まれたフルーツがトッピングされている。

 まさにちょうどいい狐色にふんわりと焼き上がったパンケーキは食欲をそそる。


 淳のチョコバナナパンケーキはバナナが添えられていてチョコレートアイスクリームに生クリーム、さらにその上からチョコレートソースがかかっていた。


 岸野さんのパンケーキは苺がたっぷり乗っていて生クリームにもストロベリーソースがかかっている。


 どれも見た目が華やかだ。ふむ、これがいわゆるインスタ映えというものか。


 SNSによくカフェのメニューの画像が上がったりしているが、確かに見た目も映える。


 家でパンケーキ、いうならばホットケーキを作ったとしても、こんなにゴテゴテした派手なデコレーションではない。

 フルーツやクリームを普段は用意したりしないのだ。


 女の子がこういうカフェのパンケーキが好きな理由もわかる気がする。


「いただきます」


 俺達はパンケーキを食べ始めた。


「うまい、うまいっすね」


 パンケーキを頬張る淳は呑気なものだ。まあ普段はパンケーキなんてオシャレなものを食べないのだからうまいのだろう。


 俺も確かに普段はパンケーキをカフェで食べるなんてないもんな。


 パンケーキは女子が好むというイメージがある。


「本当に美味しいですわ。さすがはパンケーキが名物なカフェなだけはありますわね」


 岸野さんは上品にナイフとフォークを使って切り分けている。


 さすがはお嬢様、夢中で食らいつく淳とは違って食べ方も上品だ。


「ほら、一瀬さんも召し上がってください」

「うん」


 俺も自分のパンケーキに手をつける。


 パンケーキに小瓶のメープルシロップをかけると、黄金色のシロップがトロトロとパンケーキにかかる。


 メープルシロップの甘い香りとバターの香りのコラボレーション。


 ナイフとフォークで切り分けて口に運ぶと、ふわふわのパンケーキに染みた甘いメープルシロップ、そこへバターの濃厚な味わい。


 家出作るホットケーキともまた違う、本物のカフェの味だ。


「さすがはパンケーキカフェの名物だな。美味しい」


 しかし、ただ普通に楽しむだけには行かない


 俺達はパンケーキを食べながら和美ちゃんの様子を伺っていた。普通の客を装って和美ちゃんの様子を監視するという任務もあるのだ。


 俺達がテーブルでパンケーキを食べていると同じように和美ちゃんはスマホをいじりながらパンケーキを食べていた。


 あの子が食べているのはおそらく宮下さんの言っていいた土曜日限定パンケーキだろう。


 やはりお気に入りのメニューとしてそれを食べにきたのだ。宮下さんのいう通りだった。


 すると、和美ちゃんのテーブルに誰かが来た。


「ん?」


 和美ちゃんのテーブルに来たのは男だった。


 何やら二人で親しげに会話をしている。


恐らく「おそーい」「ごめんごめん」と言った会話をしているのだろう。


「男って、あれが宮下さんの言ってたやつか?」


 背が高くてかなり明るい茶髪、緑色のタンクトップに耳にはピアス、派手なチェーン型のアクセサリー。和美ちゃんのファッションと通じるものがある。いわゆるギャル男か。昔風に言えばヤンキー系のようにも見える


 宮下さんの言ってた通り大学生くらいの年齢だろう。


 なんで中学生の女の子があんな男と共にいるのか。年齢と釣り合わないような気がする。


 確かにあんな男と妹が一緒にいたらごく普通の女子高生である宮下さんは話しかけるのが怖かっただろう。


「一体どういう関係なんすね」

「見てる限りとても親しい感じですわ」


 和美ちゃんは男の前で緊張する様子もなく、まるで仲の良い友人と喋るかのように笑顔で男とおしゃべりを楽しんでいた。


 相手は 年上だというのに、かなり心が打ち解けているように見える。


 なぜ中学生がそんなに歳の離れた男性と一緒にいるのか。

 どんな関係なのだろうか。まさか本当に年上の彼氏だというのか。


 俺達がパンケーキを食べ終わると同時に、和美ちゃんと男は席を立ち上がった。


 どうやら二人でどこかへ行くらしい。


 そのまま二人は会計の方へと進んでいった。


「追うぞ」


 同じように俺達も席から立ち上がり会計を済ませて先に出て行った和美ちゃんと男の後を追った

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