第5話 勇者パーティの仲間との再会

 俺は学校へ行く準備を済ませると、家を出て自転車に乗った。


 間違いなくここはいつも俺がいる日本だ。異世界でもなんでもない。


 住宅も、電柱のある町並みも、コンクリートの道路も、人々も、車もあれば自転車だってある。通学路だって、いつも通りだ。

 俺が違う世界に飛ばされたわけでもなんでもない。いつも通りの日常だ。


 夢の出来事に混乱するが、自転車をこいで学校に着いた。


 まだ朝早いので生徒も少ない。自分の学校の制服を着た生徒達を見ると、安心する。

 いつも通りの学校でいつも通りに俺は登校したのだ。


「さすがに家や学校ではあの夢のことを誰かに言うことをするわけにもいかないな。こんなの変な夢を見たって言われるだけだ。アニメやゲームの見過ぎだって馬鹿にされるだけだ。学校ではいつも通り、ここではいつも通りの俺だ」


 そう言い聞かせる。前世のことを思い出したってここではいつも通りの高校生だと言い聞かせる。


 いつものように授業を受ければいいと、教室に入った。


 まだホームルームが始まるよりも早い時間ということで生徒の数は少なかった。


 自分の席へ行こうとすると、岸野さんが俺の隣の席に座っていた。何やら顔をうつむけている。どうしたんだろうか?


「あ、岸野さん来てたんだ。おはよう」


 いつも通り挨拶する俺。そう、いつも通りのはずだった。


 岸野さんはいきなり顔をあげるやいなや、突然の行動に出た。


「勇者様あー!」


 そんな声と共に、俺に岸野さんが抱き着いてきたのだ。


「え、岸野さん!?」


 突然抱き着かれて、俺はその重みに耐えきれず、よろけて、どすん、とその場に尻もちをつく。その上に岸野さんがのしかかる。


 ああ、岸野さんの豊満な胸が俺の顔に……ってそれどころじゃない!


「ああっお会いしたかったですわ! まさかここでもお会いできるなんて」


 そう言って俺にの頭をがっちり掴んで離さない。


「き、岸野さん? どうしたのさ! なんで突然……! 会いたかったって、岸野さん。どうしちゃったの?」


 会いたかったも何も、昨日だって普通に同じクラスの教室で会っていたのに、なにを突然言い出すのか。


 岸野さんようやく俺を腕から解放し、のしかかったまま俺の顔をじっと見つめた。


「私、記憶が覚醒しましたの! 市瀬さんが勇者イセト様だってことを思い出したのです」


 勇者イセト、俺が夢の中で覚醒させられた前世の名前だ。


「え、イセトって……!」


 なぜ岸野さんがそれを知っているんだ。あれは俺の夢の中だけじゃないのか 


「なんで岸野さんがその名前を! それをどこで!?」


 あれは俺の夢の中で見たことのはずなのに。


 なぜ岸野さんが勇者イセトのことを知ってるんだ。


「私、記憶が覚醒しましたの。前世のことを思い出して。私、ラミーナですわ! フィローディアの教会の娘のラミーナ! イセト様と一緒に冒険した仲間の!」


「ぜ、前世!? しかもラミーナって!?」


 前世、と聞いて驚いた。なぜ勇者イセトの名前だけじゃなくて前世という概念を言うのだ。


 そしてラミーナという名前。それを知ってるということは……。


「岸野さん、君もなの!? というかラミーナって君だったのか!?」


「そうですわ! 記憶が覚醒しましたの! 私はイセト様の仲間だったラミーナですわ!」


 なんと岸野さんは前世の俺の仲間の一人であるラミーナが転生した人物だったというのだ。


 俺とモモ太と同じく、まさかこんな身近に仲間がいただなんて……!


「で、でも。俺あの勇者の姿じゃないよ。赤い髪じゃないし、体格も違う、鎧だって着ていない。なんで俺が勇者だってわかるのさ」


「フィロ神に言われたんです。市瀬さんが勇者イセトの生まれ変わりだって。それにその波長を感じます。間違いなく市瀬さんはイセト様ですわ」


「え……。あ……!」


 岸野さんがそう言うと、俺の中にも何かが『ぱああ』と花が開くような感覚がした。


 心の中からじわじわとあの世界の記憶を鮮明にしていく。


 教会の娘として生まれ、俺と出会い共に冒険した仲間。


 岸野さんの頭の上にラミーナの顔が現れたように見えた。

 なんだか岸野さんの雰囲気があのラミーナと同じ波長を感じるのだ。


 岸野さんの発言からしてその単語を知ってるのは嘘や演技ではないだろう。


「お、おい、岸野さんが市瀬に! 何があったんだ!?」


 周囲のざわつきに俺ははっとした。 


 いつの間にか教室にはさっきよりさらに登校してきた生徒が入ってきていた。


 教室に入ってきたクラスメイト達が俺と岸野さんが俺にのしかかるような姿勢になってるのを見て驚いていたのだ。


「確かに岸野さんはよく市瀬と話してることあるけど、いつの間にそこまで」

「なんか前世とか勇者とか言ってるぞ、なんのことだ? 一体どうしたんだ?」


 俺と岸野さんのやりとりで周囲がざわざわと騒ぎ出す。


 いかん、これでは俺どころか岸野さんまで変人扱いされてしまう。


 ここは一旦この場を離れることにした方がいいだろう。


「ご、ごめん岸野さん、話は後で」

「あ、待ってください!」


 岸野さんの制止を振り切って俺は慌てて教室の外に出た。


 まだ朝早い時間だったので教室にいた生徒数が少なかったのが救いか。


 岸野さんと俺のあんな光景を見られてあんな会話を聞かれたら、何事かと思われる。


「岸野さんが俺の前世の仲間……なのか」


 岸野さんが俺のことを勇者イセトだと言ったように、間違いなく俺にも岸野さんにラミーナの面影を感じたような気がする。顔とか容姿じゃなくて雰囲気がなんとなく。


 そもそも岸野さんが俺の夢の中でしか知らない「勇者イセト」の名前を知っているのだ。


 俺の夢の中なんて誰にも覗けないはずなのに。あの岸野さんが嘘をつくとも思えない。


「ちょっと、どこかで一旦落ち着こう。そうだ、部室に行こう」


 ホームルームまでにはまだ時間がある。


 落ち着ける場所はないかと、俺は漫画研究会の部室に逃げ込むことにした。



 部室錬に着て、俺は漫画研究会の部室のドアを開いた。


 すると、そこには先客がいた。


「あれ、淳じゃないか。お前今日は早く来てたのかよ。どうしたんだ?」


 すると、淳は突然の行動に出た。


「兄貴―!」

「うわっ!?」


 淳が勢いよく俺に飛びついてきたのだ。


 さっきの教室での岸野さんのパターンと同じく、いきなり淳が飛びついてきたのだ。


「ああ、兄貴はやっぱり俺の兄貴だったー! 会いたかったっすよおー!」


 まるで懐かしい誰かとの感動の再会かのように、淳は泣いていた。


「兄貴ってなんだよ。そりゃお前はいつも俺のことをそう呼んでるけど、そんな今更感動の再会でもあるまいに! それに昨日も会っただろ! 一体どうしたんだよ!?」


 俺が淳から離れると、淳は目をうるうるさせていた。


「俺、夢で見たんす。前世のことを思い出して勇者イセトが兄貴だってことを、神が告げたんです。俺達、フィローディアで仲間だったって!」


「勇者イセトだって。しかも前世!?」


 岸野さんと同じように、俺の夢の中でしか見れないはずの単語を知っている。


「じゃ、じゃあお前も」


「俺、ジュディルっすよ。風の一族の戦士のジュディル。兄貴の弟分だったやつ!」


 ジュディル、と聞いてピンときた俺の前世のパーティにいた仲間だ。


 一人旅をしていたが俺と出会い、共に姫を助ける為の魔王討伐へと行く仲間になった。


 どこか臆病部分はあったが、風を扱う一族の一人ということで、戦士としては強かった。


「お前がジュディルなのか!? 俺の仲間の!?」


 またもや仲間の一人が同じ学校にいたというのだ。前世の記憶を共有してる仲間が。


 俺だけがあの夢を見たんじゃなくて、淳と岸野さんまで俺と共通する記憶を持っていたのだから


 俺とモモ太のように、二人もまた間違いなく俺と同じ夢を見ていたのだ。


すると突然、部室のドアが開いた。


「市瀬さん、やっぱりここにおられましたのね!部室にいるんじゃないかって」


 入ってきたのは岸野さんだった。


 岸野さんは俺が漫画研究会に所属してるのを知ってるんだから俺がこの部室によくいることを当然知ってて当たり前だ。どうやら教室から追いかけてきたようだ。


「ちょ、ちょっと俺達で話そう」


 この場を落ち着ける為にはまず、ゆっくり話してみる必要がある。


 ホームルーム開始までにはまだ時間がある。

 俺と同じように二人も夢で朝早く目が覚めていつもよりも早い時間に学校へ来ていたとのことだ。

 これは話し合いにはちょうどいい。


 俺達は会議を始めた

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