後宮恋歌II
佳乃こはる
第1話 凶兆
蒼龍と小蘭が夜の桃園で、幸福のなか眠りについていた、丁度その頃。
後宮の真奥にある皇帝の閨では、囚われの美姫、黎妃が、老皇帝からの責苦を受けていた。
「あ、どうか、お赦し下さい、陛下、陛下」
「くっくっ……後宮一の傾城が、誠に淫らな姿よの。もっとよがって、余を欲しがれ!」
「ああ、これ以上はもう…どうか、どうか…ああうっ」
ねろりと耳をねぶられれば、ぞわりと身体に鳥肌が立つ。
辛うじて、腹を庇ってはいるものの、奥に直接異物を押し込まれれば、儚い命はどうなるとも知れない。
憎い男の子どもなど、いっそ流れてしまえばいいとさえ思っていたのに...
意に反して、本能はいつの間にか、子を孕んだ腹を庇ってしまっている。脈動に脅かされ、心亡き男の悪意に晒されてなお、必死で腹にしがみつこうとする命を、醜いともいじらしいとも感じている自分がいる。
この地獄は、いつまで続くのだろうか。
陛下の認知は日に日に落ち、目に見えて寄行が目立つようになってきた。まるで、秘かに毒薬でも飲まされているように。
今宵は、後宮の医師である春明に頼みこんで「謝絶」としてもらっている筈の自室に無理やり押しかけ、推し留めようとした春明を突き飛ばして、私を閨に攫っていった。
なぜ自分ばかりがこんな目に遭うのかと、つい天を恨んでしまうようになった自分が悲しい。
貴方が見間違うほど私に似ているという寵姫か、それとも、とうとう正妃に迎えられたという、曹丞相の娘か。
いずれにせよ、あのしなやかな胸の中に、誰かが抱かれているのかと思うと、気が狂いそうになる。
「黎妃よ、今、何を考えておる?」
「も、もちろん陛下のこと、あ、ああ。陛下、心地良うございます」
「クック...嘘を申せ、余は知っておるぞ。お前は、余が死ねば、また蒼龍のところに舞い戻ろうと思っておるな」
「!、そのようなことは決してございません。陛下がいなければ、妃は生きてはゆけません」
「はっ、口では何とでも言える。
「そ、そのようなこと…ん」
老皇帝は、顎にかけた手で妃を己に振り向かせると、その唇に、強引に己の舌を割り入れた。
「う、…ぐ」
とろりと口の端から涎が伝って落ちる。
「よいよい、余は全てを
おぬしらの魂胆など、全てな————」
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