第2話

「またか?俺は家の大黒柱となって仕事頑張るから、おまえは専業主婦をして家を支えてくれとお願いをしたけどよ。毎日昼間から酒飲んで家事育児もそっちのけって…。おまえ病気じゃないのか?もう病院へ行こう。」

「声が大きい。お酒なんて飲んでないわよ。体調が悪いだけ!」

「酒の臭いぷんぷんで飲んでないわけないだろう!」

そんな会話が続くようになって、家の中の雰囲気は最悪だった。

私が小学1年生になった頃に父が母の両親へ今の状況を伝え、病院へ行きたがらないから一緒に説得してほしいと頼むと母は病院へ渋々行くこととなった。


【 病名 アルコール依存症 】


アルコール依存症と診断をされ、父は驚いた。

なぜなら母は「お酒が弱くて飲めないからお父さん代わりに飲んでくれない?」と言うような人だったからだ。

「女性ですと5年くらいですね。隠れて毎日お酒を飲まれていたと思います。」と医師から言われ、父の顔色は青ざめていた。

アルコール依存症の患者を受け入れしてくれる専門の病院を紹介され、お酒を断つために入院を勧められた。

入院することになった母は「なんで私が入院しなきゃいけないのよ!私は病気じゃないから入院なんかしないからね!」と怒り狂ったが、強制的に入院してもらうこととなった。

まるで映画で見るような刑務所のようで、病院の至るところに鍵付きの柵の檻と監視までもいた。

入院する母の病室へ行く途中、他の入院患者の寄生が廊下に響いていた。

私は無言で父の手を強く握った。

入院している母親から「シャンプーがないから持ってきてほしい。」と頼まれた。

指定された最低限の物しか持ち込めない。

荷物検査をクリアして、いくつもの檻を潜った。

久しぶりに母へ会えると喜びでいっぱいの私は「ママー!シャンプー持ってきたよ!」と言いながら抱きつくと「美咲、ありがとう!ママ会いたかった!愛美は来れなかったの?」と抱きしめ返してくれた。

シャンプーを渡すと母の顔色が変わり「●●●じゃない。私は●●●しか使わない。こんなの要らない。」とシャンプーを投げつけた。

「ちょっとお酒飲んだだけじゃない。私は病気でもないのにこんなところへ入院させられて…。なのにお気に入りのシャンプーも持ってきてくれないの?早くここから出して。頭がおかしくなりそうよ。」と母は怒鳴った。

ケンカをしてほしくない私は父の言葉を遮るように「ママごめんね。ごめんね。ごめんね。」と謝る。

そんな私の腕を母は力強く掴み、「美咲、パパを説得して。ママは病気じゃないの。なのにパパが…。」と泣いた。

父が私を母から離したところで看護師二人が来て、一人の看護師に私は廊下へ移動させた。

「そのお酒が問題なんだよ。家族のためにアルコール依存症と自覚してくれよ。物を投げるんじゃない。シャンプーなんて使えればメーカーなんてどうでもいいだろう。」と怒る父親の声が廊下にいる私まで聞こえた。

帰りの車の中で父へ声をかけることすらできず、無言のまま帰宅。

母に掴まされた私の腕は内出血していた。



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