第2話今ならきっと、手が届くでしょう

次の日10時にホテルのロビーに俺達が現れると、桔梗さんは既にロビーで待っていた。


「昨日、強盗の仕業にするのが簡単だとおっしゃっていましたけど。一体どういう意味ですか?。」

「大使館とか出世コースに乗った人間は、保身に気を配ります。万が一、大使館内での問題で誰かが殺されたとなると、皆困るでしょうね。」


「父は大使館の誰かに殺されたと言うんですか?。」

「まだ、解りません。でも、舘山寺氏はカラチでの交際範囲が狭かったんじゃ、ありませんか?。」


「確かに、こちらでは、大使館と寮を往復するだけの生活だと父は話していました。」


「じゃあ、大使館の人達意外から殺される理由が無いでしょう。俺は探偵を目指してるんです。以前にも密室殺人事件を解決しています。俺たちと一緒に舘山寺さんを殺害した犯人を見つけませんか?。」


「私は何をしたらいいんですか?。」

「舘山寺さんの事を皆に聞いて廻って下さい。誰と親しかったのか、誰かに恨まれていなかったか。後、できれば舘山寺さんの手帳や携帯を俺たちに見せてください。」


「父の最後の言葉はどういう意味なんでしょう?。」

「そうですね、それについても皆に聞いてください。人名、地名、または、どこかの建物や敷地などの周囲を囲むように作られた工作物で間隙の多いもの。『ツキガキ』という言葉の意味が解ればいいんだけれど。」


「『月が綺麗』だと、言おうとしたのかも。あの時、綺麗な月が出てたから。」


俺の言葉に、サツキは

「確かに、ダイイングメッセージの全てを言い切れなかった可能性もあるか。だが、俺は舘山寺さんにI love you.と言われる理由はないぞ。」

と言って、俺を見て、意味ありげにニヤッとしてみせた。


数日後、桔梗に呼び出されて、ホテルの近くの店に顔を出した。

「父と仲が悪かったらしい人がいました。一人は白石さん。父が亡くなった時、連絡を受けて確認に行った人です。」

「ええ、あの時、白石さんとお合いしました。」


「白石さんをパキスタン勤務に指名した父を恨んでいると言う人がいました。」

「確かにパキスタンが嫌になっている様子でした。」


「もう一人は領事館の運転手の柏原さん。こっそりお酒を飲んでいる所を父が見つけて、叱咤したらしいです。」

「勤務時間に飲んでいたんですか?。」


「ええ、ただ、もう運転の仕事が来ないだろうと考えて飲んだと言っていたそうです。」

「それでも勤務時間にはマズイでしょうね。」


「三人目は領事館の料理人の大木さん。料理の材料費をごまかしているのに父が気づき、領事館長に報告した為、減俸になったそうです。」

「舘山寺さんは真面目な方だったんでしょうね。」


「ええ、娘の私から見ても融通が利かない人でした。これ、父の携帯と手帳です。私が見ても特に変な事は無かったですが。」

「ありがとう。僕も確認させてもらいます。あと、舘山寺さんはカラチの他にパキスタンの何処かに行った事がありませんか?。」


「そういえば、シンドの昔風の田舎の家に行ったって手紙に書いてよこした事がありました。」

「誰と一緒に?。」


「確か、領事館館長と運転手、料理人、白石さんと一緒に行ったと聞いた気がします。」

「その場所の写真が携帯にあるかもしれないですね。」


「これじゃないですか?。」

サツキがスマホのギャラリーから探し出した。

そこは、カラチから200KM以上離れているだろう、田舎の光景だった。


田舎の屋外の炊事場で料理している四十代くらいの料理人の写真があった、炊事場も家も塀も泥で造られている。

他には、屋内で食事をする領事館長と舘山寺と白石の写真。

後、道路に駐車された領事館の自動車と、四十代くらいの運転手の写真、ここにも塀が写っている。


「この塀は、築垣って呼べるでしょうね。泥で造られていて、間が空いている。」


「サツキだったら、ダイイングメッセージの謎に手が届きそうかな?。」

俺が茶化した。

「ここの住所を、何気なく聞き出して下さい。ここに行ってみるべきでしょう。」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る