1月30日(金)

「犯行から一年が経ちますが、いまだに犯人は『やらされた』などと故人の名前を出し殺害の意思はなかったものとして供述しているようです」

つけっぱなしのテレビから聞こえる朝のニュース番組では、女性アナウンサーがやけに真剣ぶった面持ちでニュース原稿を読んでいる。数分後には笑顔でお天気お姉さんの名前を呼ぶクセに。

周りでは両親が忙しそうにバタバタと目の前を行ったり来たりして、その合間合間に話しかけてくる。

「じゃあパパはそろそろお仕事行くからね〜」

猫撫で声で話しかけられるのにはまだ慣れない。この身体になって間もないということもあるだろうが、すでに20年ほど生きていた記憶があるものだから、父親があやしてくることを他の赤子同様に真っ直ぐには受け止められないだろう。

「やっぱりお兄ちゃんの方はあんまり笑わないね〜」

少し不思議そうに首を傾げる母親は、隣にいる「妹」と彼を交互に見た。

妹の方は母親の顔を見るときゃっきゃと無邪気に笑い右の手を伸ばしている。もう片方の手は、左目の下にホクロのある彼に強く握られたまま。

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四十九日記 望月 泣忤 @ikimono-nanodakara

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