ギャル過ぎて婚約破棄された彼女が貧乏領主の僕の嫁に来てからの普通じゃない新婚生活のこと

片月いち

第1話 ギャルたるものスマホを手放すべからず


「なんかー、うちの親にココにとつげって言われてー? で、しょーがなく来たんですけどー? つーか、ここ超田舎じゃない?」

「いや。要らないんで帰ってくれない?」



 僕のところに嫁がきた。

 嫁は圧倒的ギャルだった。


 ……失礼。僕はウィル・トースター。

 この辺境の片田舎かたいなかを治めているトースター家の当主だ。


 そして、目の前にいるこの女性の名は、サマンサ・ヴィクトリーヌ。

 我がトースター家に嫁いできた女性だった。彼女は実家からの馬車から降りて僕の前に立つと、先のセリフを言い放った。


 ……というか、仮にもこれから夫になる人間にしょーがなくとか言うな。



「実はー、もっとオトコマエで金もってそーな人と婚約してたんだけどー、なんか直前になって破棄されちゃってー」

「そりゃ破棄したくもなるわ。僕も今まさに破棄したい気分だわ」



 オトコマエじゃないし金も持ってなくて悪かったな。


 こんなサマンサだが、実は名のある貴族の出身である。しかし、あまりに独特なファッションや先進的すぎる価値観が貴族社会では受け入れられず、当初予定されていた婚約を破棄されてしまったそうだ。


 ……まあ、わからんでもないなと彼女の姿を見て思う。


 派手目の化粧に大きなイヤリングとネックレス。肩まで届く金髪を外巻きに巻いて、柄物の上着に黒のミニスカート、厚底のニーハイブーツといった出で立ちだ。


 典型的なギャルスタイル。


 保守的な貴族社会では、認められにくいだろう。



「ま、まあ。これからよろしく頼むよ。一緒に夫婦として……」

「あ、友達からスマホにチャットきたわ。……あー、もしもしー?」

「話きけよ! しかも通話すんのかよ!!」



 彼女は持っていた小型の板に頬をつけて会話をはじめる。


 シルフ式マギアフォン――通称“スマホ”だ。

 

 風の精霊シルフによって、音声や画像などといったものを瞬時に送ることができるマジックアイテムだ。

 個人間の通話だけでなく、王立図書館や魔法アカデミーなどの情報にも一瞬でアクセスできるスグレモノで、貴族の若者の間ではマストなアイテムになっている。


 むろん、目の前の僕をスルーして使用すべきものではない。



「ホントに、どうすりゃいいんだよ……」



 聞いていた以上にぶっ飛んだキャラクターに頭を抱える。

 だが、もう後戻りはできないのだ。



 僕はこの領地の当主だった。幼いころに母を、最近になって父を亡くし、若輩じゃくはいながら土地を引き継ぐことになった。


 僻地ではあるが緑豊かでのどかな場所である。外敵と呼べるようなものもほとんどおらず、長く平和で安定した暮らしをしていた。

 だが、代わりに特産となるものもなく、貧乏な土地でもあった。


 父が他界した際、土地は親戚が引き取るという話もあった。まだ結婚もしておらず、跡取りもいない僕では、領主として不十分だというのだ。

 とはいえ、先にも話した通り、これといった特産品もない貧乏な土地だ。管理のわずらわしさを考えれば、別に誰も欲しいとは思わない。


 そんなとき出たのが、サマンサの嫁ぎ先としての話だった。娘の素行に困っていた彼女の親が、彼女の隔離場所かくりばしょを探していたのだ。

 この結婚は、貴族同士の不良債権ふりょうさいけんの押し付け合いのような形で決まったものだった。



 その日のうちに、僕とサマンサの結婚式が行われた。

 小さな屋敷のなか、神父やわずかな友人を呼んで、貧相だが粛々と式がり行われる。

 互いの意向はどうあれ、もう決まったことだ。僕は、サマンサとはなるべく良好な関係を築き、この結婚を少しでも幸せなものにしようと思っていた。


 式の終盤。

 神父が僕たち二人の前に出てきて言った。



なんじすこやかなるときもめるときも……」

何時なんじ? そんなんスマホみればわかんじゃね?」



 ……マジで、これから先が不安だ。

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