ゴミ拾いの英雄 〜異世界から転移してきた勇者という『ゴミ』を拾う仕事をしていた俺は、すぐに溜まっちゃう彼女と毎日ディープなキスをする〜
しがわか
第1話 ゴミ拾いのアスラ
「おーい、アスラ! アスラ!」
階下から俺を呼ぶ声と、バタバタとした足音が聞こえてきた。
昨日は夜遅く帰ったからもう少し寝ていたいんだが。
無駄な抵抗と知りつつも、近づいてくる足音から逃げるように俺は頭まで毛布を被りなおす。
「おい、起きろアスラ!」
俺の
「何すんだライロ。寒いから返せ」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねえ、ゴミ拾いの仕事だぞ」
「……っ!」
「ほれ、さっさと支度をしたほうがいいんじゃねえか?」
俺はその言葉に急かされつつ寝床から這い出ると、大きく伸びをして肩を回した。
さらに首をコキコキと鳴らし、寝ている間に硬くなってしまった全身をほぐす。
床へ直接置いただけのマットは硬いし、体を目一杯伸ばすこともできやしない。
そもそも体の大きな俺にとって、この屋根裏部屋は窮屈すぎるんだ。
「アスラ、お前ぇなんか言いたいことでもあんのか?」
「ここは狭くて埃っぽいし、うす暗くてくせぇ……けど、文句なんて一切ないな」
「おい、文句しか並んでねえだろが」
正直なところ、行くあてのなかった俺を拾ってくれたライロには頭が上がらない。
例え埃っぽくて狭っ苦しい場所だとしても寝床と屋根があるだけでもありがたいってもんだ。
恥ずかしいから直接は言ってやらないが。
それに……俺にとって最重要課題である〝ゴミ拾い〟についても、冒険者ギルド長であるライロの情報網を駆使することで円滑に遂行できているわけだし。
「……まるで天国だっての」
俺はライロに聞こえないよう小さく呟いてから、少し毛羽立った外套を羽織った。
ライロが投げて寄越した萎びたリンゴをキャッチすると、かじりつきながらさっさと仕事の確認を済ませる。
「ゴミ拾いの場所は?」
「ホルダード湖付近だ。妖精の泉ってやつだな」
「ああ、真ん中に女神さんの祠が建ってるとこか」
俺はリンゴの芯をボリボリと噛み砕くと階下へ続くはしごに手をかける。
「相変わらず芯まで食うんだな。そんなやつお前くらいだぞ」
「うっせ、勿体ないだろが」
ギシギシと鳴く頼りないはしごを伝って簡易宿泊所である二階へ降りると、階下から言い合いをする声が聞こえてくる。
ここは冒険者ギルドの建物、ともすればこれくらいの喧騒は日常茶飯事だ。
きっと貼り出されたオイシイ依頼の取り合いでもしているのだろう。
呑気にそんなことを考えていた俺を押しのけ、ライロは大きな足音を鳴らしながら階段を降りていく。
うん、こりゃ雷が落ちるに違いない。
「ゴラァ! お前ら、うちのギルド内で揉め事起こしてんじゃねえぞ」
「だ、だってこいつがッ」
「あんたこそ……」
「ガキ共ォ、まだ続けるってのか?」
ライロがギロリと睨むと、言い争っていた二人の男女はしゅんとして引っ張り合っていた依頼票を手離す。
はらりと落ちた紙は空中でくるりと回ると、俺の足元へ滑りこんできた。
思わず拾ってみると、どうやら取り合っていたのは『ハロウト花』の採取依頼だったようだ。
装備や請けようとしていた依頼内容を見る限り、二人は
そう当たりをつけると、俺は二人に声をかける。
「おい、お前たち」
「何だ?」
「にゃによ!?」
険のある目つきを向けてくる二人は、まるで余裕のない野良犬と野良猫のようだ。
実際よく見れば女の方は頭の上にふわふわな耳がついている。おそらく亜人なんだろう。
「お前らはこの依頼を受けようと思っていたんだよな?」
拾った依頼票をひらひらと揺らしてみせると、二人は同時に手を伸ばしてきた。
また取り合いの喧嘩になるのも面倒なので、さっと紙を引っ込める。
「くっ、そうだ! 俺は冒険者登録したてで請けられる依頼が少ねえんだ。なのにこの女が……」
「にゃによ、私だって同じにゃんですけど? まったく、自分のことしか考えられにゃいのね!」
「なんだとこの猫ッ……!」
「はいはい、そこまでにしとけ。またライロ……ギルド長に怒られるぞ」
俺は二人の間に割って入ると、依頼が貼ってある掲示板へ視線を向ける。
確かに低ランク冒険者が請けられる依頼はほとんど残っちゃいないようだ。
手つかずなのはきつくて割の悪い仕事ばかり。それなら——。
「お前ら俺の仕事を手伝ってくれ。おいライロ、いいか?」
「はぁ、まーたお人好しのアスラが顔を覗かせたのか。勝手にしろ。だが給金は変わらんぞ」
「分かってる。ついでにいくつか依頼をこなせばいいさ」
街の門をくぐって街道に出ると、目的地であるホルダード湖へ歩を進める。
その途中でようやくの自己紹介となった。
「俺はアスラだ。お前らの名前も教えてくれ」
「俺はエルグランデ、人族だ。エルでいいぜっ!」
「にゃんであんたはそんにゃ偉そうにゃのよ……ええっと私はリオン、猫系の亜人族です。探索者としてはまだ
星なしということは、やはり見立ての通り
探索者のランクを表す星は、依頼をこなした実績によって増えるもんだからな。
「アスラさんの星はいくつにゃんですか?」
頭の上の耳をぴょこぴょこと動かしながらリオンが尋ねてきたので、俺は首にかけてある冒険者タグを胸元から引っ張り出して二人に見せた。
「……こんな感じだ」
薄汚れて年季の入ったタグは、陽の光を反射して鈍く光る。
身元証明でもある金属の板を覗き込んだ二人は、ハッと息を呑んだ。
「い、五つ星……最高ランク!?」
リオンが尻尾を立てて素っ頓狂な声を上げると、エルも目を見開き固まってしまった。
それもそのはず、五つ星の探索者というのは大きな街でも数人いるかいないかの高ランクだ。
目にしたことのない高ランク冒険者を見ればそんな反応にもなる。
けど、残念ながら俺の場合は少しばかり事情が違った。
「よく見てみろ。このタグはちょっとおかしいだろ?」
「えっと……?」
リオンはまじまじとタグを見つめると、首を傾げてうなっている。
後ろから覗き込むエルもなんのことか分からないようで、お手上げのポーズだ。
ああ、そういえば二人は星なしだったか。見たことがなけりゃ分かるわけもない。
「あのな、本来はタグに付く星は金色なんだ」
「えっ、でもアスラさんのは……黒い、ですね」
「そうだ。ちょっと〝特別〟な事情があってな。内緒だぞ」
俺は笑いながら軽くウインクをすると、タグを胸元にしまう。
特別という響きにエルは目を輝かせているが、残念ながらそんな大層なものじゃない。
むしろ裏技というか、抜け穴というかとにかくそういった類のものだ。
「まあそんなわけでランクに偽りありだが、先導するくらいのことはできるから安心しろ。ところでエルの得物は長剣か? それに盾も使う感じか」
重そうに背負っている盾へ目をやりながら尋ねると、ふてぶてしかったエルが姿勢を正して答える。
「は、はいっ! そうです!」
「別にかしこまる必要はないんだがな。んでリオンは……?」
「私は鉤爪ですっ!」
そういいながら装備している手甲を捻るようにいじると、小気味の良い音を立てて金属の刃が数本、手甲から飛び出した。
確かにずっと爪が伸びてたら不便で仕方ないだろうから、使用しないときに収納できるのはいいギミックだな。
「つまり猫系亜人の特徴を利用した素早さ主体の近接戦闘スタイルか?」
「えっと……そうにゃれたらって思ってます」
殊勝な態度の二人を見ながら、俺は軽く頷いた。
これで二人の戦い方は分かった。
エルはタンク系でリオンは回避特化のアタッカーってところだろう。
「ところで俺たちが手伝う仕事ってなんだ、ですか?」
「無理しなくていいぞ。俺のことはおじ……んんっ、兄ちゃんくらいに思ってくれりゃいい。んで、手伝ってもらう仕事はな——」
想像もしていなかったであろう返答を聞いた二人は、輝かせていた瞳をあからさまに濁らせる。
「え、ゴミ拾い……?」
エルは落胆したような顔をして、俺の言葉を繰り返していた。
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