転生屋 三郎
「本当の・・・転生屋?」
「ならっ!あの転生屋は?!」
「あぁ、あれは私の部下が経営しているラーメン屋さ。どうぞ、食べてくれ。他の神々も隠れてくる程の人気店だ。」
若者は衝撃で動けなくなっていた。
自分がいつも使っていた転生屋がただのラーメン屋?なら、自分が転生していたのはなんだ?と混乱と困惑で思考困難になっていた。
「ほぅ・・・魚介の味が効いている良い塩ラーメンだ。・・・・・・美味しい・・・本当に美味しい・・・」
「え?爺さん・・・?」
ラーメンを隣で呑気に啜っている爺さんを見たら、泣いていた。
すごく自然に泣いていた。
匂いで分かる。これは美味いラーメンだ。
でも、ラーメンを食べて泣くなんて明らかにおかしいだろう。
「久しぶりの魚の味は?どうかな?」
「あぁ、凄く美味しいよ。神様・・・・・・」
「久しぶり?」
「そういえば言ってなかったな。私は昔・・・太っていた・・・」
「はあ?」
いや、絶対ないだろう。
爺さんの身体は正に骨と皮しかないようなガリガリとした体型となっていた。
確かに手や足がデカかったり、やけにダボダボな服を着ているとは思っていたが、それでもザ・痩せ型体型の爺さんが昔、太っていた・・・つまり、そういう事だろう。
「闘病生活が長かったのか?」
「・・・いや、健康優良で老衰で死んだぞ、ワシは。」
「・・・・・・・・?」
「ふふふ、天城君、そうじゃないよ。濱口さんは生前、魚アレルギーだったんだよ。」
爺さんこと濱口
食事が好きでバクバク、ブクブクと太っていた濱口は中年になっても100キロ近くの体重を維持しながら魚を食べていた・・・あの悲劇が襲うまでは・・・
「何でもない・・・風邪だった・・・いつも通り、大好きな魚を食べて、薬を飲んで過ごしていただけなのに・・・・・・風邪が治った頃には・・・ワシは魚アレルギーになっておった・・・」
そこから濱口の人生に陰りが差し込んだ。
日々がいかに幸福に包まれても、宝くじが当たっても、愛妻に恵まれても、子供が産まれても、親孝行をしてもらっても、孫が産まれても、家族円満な人生を送り、皆に笑顔で笑いながら楽しい最後を迎えても、濱口の心は常に曇っていた。
魚を食えなくなった濱口の食欲はみるみるうちに落ちていった。
最高級の肉を食べた、自分で育てた趣味のレベルだが、最高傑作の野菜を食べた、思い出の昔からある柿を食べた・・・ありとあらゆる方法で食欲を戻そうとしても魚のことが忘れられず、食欲は戻らなかった。
「地元でヒグマとして有名だったワシもいつしか骸骨に間違えられるほど痩せ細った。」
「・・・・・・辛かったろう。君は何を望む?」
「魚をたらふく食べれる環境と肉体・・・今後食事の邪魔にならない身体が欲しいです。」
神様はニコッと笑うと濱口を転生させる作業を終えた。
濱口の身体は光輝いた。
「世話になったな。天城・・・」
「拓郎だ。天城 拓郎。それが俺の名前だ。爺さん。」
「魚好で良い。若しくは魚爺さんと呼べ。孫はそう呼んでくれた。」
「・・・・・・魚爺さん。」
「先に行く・・・お主の転生に幸があらんことを。」
「魚爺さんもな!!たらふく!魚を食べるんだぞ!!!」
短い間だったが、それでもここまでの道のりで、話、笑い、怯え、一緒に楽しんだ仲だ。
アレルギーになったことのない天城には濱口の半生以上の苦悩は分からないが、それでも、これからの人生は幸福であって欲しいと心の底から願った。
「それじゃあ、次は君だね。天城 拓郎君。・・・君は何を望む?」
「・・・・・・それより聞かせてくれ。俺がこれまで転生してきた人生はなんだったんだ?」
「仮想世界。・・・元の世界をベースに作った偽物の世界さ。」
「何処だよ!!此処は!!!!」
濱口が目覚めた場所はイカダの上、それも島も何も見えない絶海のイカダで起きた。
此処はポイント・ネモ。
世界で最も陸から離れた静かな海である。
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