ポイント・ネモ〜スリルを要求したらイカダ生活?!〜

栗頭羆の海豹さん

スリルマシハーレムナシチートナシサイキョウナシで

「ハーレムマシマシ!チートマシ!サイキョウマシ!!」


「全マシで!」


「あいよ!!」


 二郎系みたいな注文する声を聴きながらお爺さんは天界の転生待ちの列に並んでいた。

 

 お爺さんは自分が死んだ事を理解し、受け入れている。

 自分の後ろの方には自分の死を受け入れられずに駄々を捏ねている若者が多数いた。


「爺さん?此処初めて?」


「・・・お主こそ後ろの連中と違って大人しく待っておるな。」


「そりゃあ・・・初めてじゃないからな。・・・常連という奴だよ。」


 そんなラーメン屋感覚で転生しているのか?と死ぬのが気軽だなと爺さんは若者に尋ねた。


「これでも波瀾万丈で苦難の人生・・・・まぁ、どうでも良いだろう・・・色々送って来たんだよ。」


「そうか・・・」


 何か引っかかることがあったが、爺さんは若者を追求することはなかった。

 知り合ったばかりの他人の人生に興味もなかった事もあるが、それよりもこの場の説明が欲しかった。

 死後初心者の自分にこの場所についてご教授して欲しかった。


 この列の先にあるのが、転生する場所というのは転生屋 三郎という看板で分かっていたが、このラーメン屋みたいな注文の声も、マジでラーメン香りがするのも意味は分からなかった。


「この先のラーメン屋みたいな店構えの中に入ると、店主にどんな世界と人生が良いかを聞かれる。・・・・・・この注文もそれだな。あの券売機で世界を決めて、トッピングで人生を決める。まぁ、大体の人はハーレムマシとか、チートマシを頼むな・・・」


 そんな転生の仕方があるんだな。と素直に聞いていた。


 若者とその後も話していると店が近付いてきた。

 店の壁にトッピングの種類が書かれていた。


 スリル、ハーレム、チート、サイキョウの四種が書かれていた。

 量はナシ、マシ、マシマシ、フジサンがあった。


 そこはチョモランマではないのか?と疑問に思ったが、なんでも店主の好きな山が富士山なんだと若者が教えてくれた。


「爺さん、俺たちの番になったぞ。」


「おぉ、色々な世界があるな・・・オススメはあるか?」


「うーーん。どの世界も色々良さがあるからな。魔法が好きならこの世界とか、サイバー好きならこの世界みたいなのがあるが・・・爺さんはどんな世界が良いんだ?」


 若者に言われてみて確かに自分はどんな世界が良いんだ?と爺さんは疑問に思った。


 ・・・・・・前世の悔いを清算出来る世界が良い・・・


「海・・・」


「え?」


「海が綺麗な世界が良い・・・」


「それなら・・・・・・あまり環境汚染のない世界が良いよな・・・なら、この世界はどうだ?俺が前に転生した世界だけど、物凄く海が綺麗だったぞ。」


「・・・・・・ありがとう。」


 スキル系魔力世界の中の多種力世界というものだった。

 若者が嘘をついている可能性があったが、これも縁として爺さんは若者のオススメを迷う事なく押した。


「トッピングは決まったのか?爺さん。」


「あぁ、それはトッピングを見た時に決めた。」


「・・・・・・トッピングは?」


「スリルマシで頼む。」


 ハーレムだとか、チートだとか、サイキョウだとか、そんなものはいらない。

 少しのスリルと海さえあればそれでいい。

 爺さんはそう思った。


「お客さん、こちらへどうぞ。」


「・・・・・・・・この若者も連れて来ていいか?」


「はぁ?!」


「構いません。」


「良いの?!!」


 何故か、奥の部屋に案内された爺さんは旅は道連れだと隣に座った若者も一緒に連れて行った。

 部屋までの道は何もなくただただ闇が包んでいた。

 店主は扉を開けた後、速やかに二人が入った事を確認したら閉めた。


 闇ってこんな踏み心地なんだ。と闇の道を歩くという新感覚を楽しんでいる爺さんに対して、今までこんな事なかったぞ。と若者は混乱しながら、ひたすら爺さんの隣を決して離れる事なく付いて行った。


「何処に続いているんだ?」


「分からないが、もうすぐじゃな。」


「なんでそんな事が分かるだよ。」


 爺さんは闇の奥底に光があるのを指差して、あそこが多分目的地だと、若者に教えた。


 そして、左右どころか、自分達が上下どちらに進んでいるのか、方向感覚が狂ってきた頃、ようやく二人は案内された部屋に辿り着いた。


「やぁ、よく来たね。人の子よ。・・・そんな所におらずに、こっちおいで。」


「うわぁ!」


「ふむ・・・良い香りのお茶じゃな。」


「いや?!いきなり移動されたことを驚けよ!!」


 部屋の中には中性的な人ではないモノが椅子に座って紅茶を飲んでいた。


 神だと思われるモノが手招きをした瞬間、二人は神(仮)の目の前に座っていた。

 そんな異常な現象に驚く若者と違って、爺さんは机に置かれた自分達の分のお茶の香りを嗅いで楽しんでいた。


「それでこの部屋はなんですか?」


 爺さんはお茶を一口飲むと神(仮)にこの部屋のことを尋ねた。

 真っ白い部屋に絵を描くように色々取り出す神(仮)がいるよく分からないこの部屋は自分の理解の外ではあるが、この疑問をスルー出来る程好奇心が枯れている訳ではなかった。


の転生屋にようこそ、お二人さん。」

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