第3話
そしてそんな出来事も、既に半年は前の話である。
あの男、後で教えられた名前だと、
僕と和義の決着がつく前に、襲撃者が地下闘技場を完全に制圧してしまったのだ。
襲撃者の正体は、央京シティの一部地域で勢力を誇るギャングの一つ、紅夜叉会。
地下闘技場を運営していた九竜会とは敵対関係にある。
僕は知らなかったのだが、あの地下闘技場は、九竜会の中でも有力な幹部の一人が直接差配していたらしい。
その幹部は、特に大きな戦いが行われる際はほぼ間違いなく地下闘技場に姿を見せて観戦をするそうで、その首を狙った紅夜叉会は和義を地下闘技場に送り込む。
和義なら、あの地下闘技場でも九竜会の幹部が姿を見せるまで生き残れるだろうからと。
金属装甲を身に纏う和義はその換装で姿を、受ける印象を大幅に変える事ができるし、あぁいった姿の機械兵は元傭兵や企業の私兵に少なくないから、偽る身分も容易がしやすい。
そうやって地下闘技場に潜り込んだ和義は、あの日、僕との戦いを観戦する幹部を確認し、密かに送った連絡によって、襲撃は実行される。
つまりは、そう、ギャング同士の争いだ。
紅夜叉会は、人身売買から薬の流通まで金になるなら何でもやる九竜会に比べると幾分マシな組織ではあるが、それでもギャングである事に変わりはない。
地下闘技場にいた殆どの者は、九竜会の幹部と一緒に殺された。
例外は、九竜会に売られてきて、一度の戦いで消費される予定だった筈の少年少女達と、それから僕。
僕が殺されなかったのは、紅夜叉会の中でも特に腕の立つ和義と対等に戦っていたからだ。
結局、僕は和義の推薦もあって、紅夜叉会にスカウトされる。
一応、断る自由はあった。
断ったからって、僕から敵対しなければ、殺しはしないと彼らは言う
ただ、僕はやっぱり、戦う以外に生きる術を知らなかったから。
状況に流されたというのは幾分あっても、僕は自らの意思で紅夜叉会に、ギャングの仲間に加わると決めたのだ。
それから半年間で今の世情を学び、銃やナイフ等、地下闘技場では触れる事のなかった武器の扱いも教わって、今日、僕は初仕事に参加する。
半年間も学ぶだけで衣食住の面倒を全て見てくれるなんて、売られて即座に戦わされた前の居場所との違いに眩暈がするくらいだった。
「まぁ、初仕事ったって、今回はそんなに難しい仕事じゃないから、心配する必要はないよ。うちのメンバーと揉めた馬鹿な数人にお仕置きするだけだしね」
あっけらかんと物騒な言葉を口にするのは、白いスーツ姿の優男。
今回、僕と組んで仕事をするチームのリーダーのギュールだ。
とてもそうは見えないが、体内に仕込んだサイバーウェアで反射速度を大幅に強化していて、紅夜叉会でも名の知れた銃の使い手なんだとか。
名前からわかる通り、外の国の血を引いているらしい。
紅夜叉会は武闘派の多いギャングだが、その中でも特に腕の立つメンバーが集められた戦闘部隊がある。
和義やギュールはその戦闘部隊でもリーダー格で、上から仕事を請けると部隊の中から好きにメンバーを集めてチームを編成する権限を有してた。
ギュールは半年の訓練機関で、僕に銃の使い方を教えてくれた人物でもあって、何かと気に掛けてくれていたから、今回の初仕事にもチームメンバーとして選出してくれたのだろう。
ただ、今回の仕事はギュールが言う程に簡単な物では決してない。
別に彼の言葉が嘘という訳ではないのだが、まず当たり前の話として、一般人の類が自分からギャングと揉める筈がないのだ。
故に敵対者は別のギャングか、或いは企業か、それともフィクサーを介して様々な厄介事を飯の種にするランナーと呼ばれる傭兵の類。
更に言うならば、メンバーが誰かと多少揉めた程度では、戦闘部隊にまで話が回ってきたりはしないだろう。
つまりその敵対者は、戦闘部隊を派遣されるくらいに、大きな損害を紅夜叉会に与えたか、メンツを大きく傷つけたって事になる。
そんなのどう考えたって、相応の実力者にしか不可能だ。
組織から支給されてる小型端末に、今回の仕事の詳細が表示される。
ターゲットはミーアキャットを名乗るランナーチーム。
なんでも、彼らは有力企業の一つ、ヤマガサ重工の輸送車両を襲撃したが、その現場が紅夜叉会の管理地域、ギャング風に言えばシマの中だったのだ。
騒ぎを聞きつけて駆け付けた紅夜叉会の構成員と、襲撃を終え撤退するミーアキャットの間に銃撃戦も起きたという。
実は紅夜叉会の縄張りは相当に広い。
多くは人が雑多に住み、川に近い下町だが、栄えた繁華街や央京シティの外に通じる大きな道路等も含んでる。
つまりそれは、紅夜叉会が強い力を持ってるって事なんだけれど……。
一体、どうしてミーアキャットがそんな無謀な真似をしたのかは不明だ。
ギャングの縄張りで暴れれば、メンツを傷付けられたとして、敵対関係になりかねない事くらい、央京シティでランナーなんて仕事をしているなら、理解していて当然なのに。
また紅夜叉会の対応も、些か過激すぎやしないか。
確かに縄張りの中で暴れられれば、それを放置する訳にはいかないけれども、対象者に賞金を懸けるなり、それを使ったフィクサーに圧力をかけるなり、もっと穏やかな対処法は幾らでもあった筈だ。
半年前ならともかく、今の僕はそのくらいの事は理解できるくらいに、他ならぬ紅夜叉会から世情を教えられている。
故にこの事件の詳細には書かれていないが、もっと深い事情が今回の仕事にはあるのだろう。
例えば、ヤマガサ重工の輸送車両が何かを運び込もうとしていたのは、紅夜叉会だったのではないかとか。
その何かをミーアキャットに奪われて、それを取り返す為に戦闘部隊が派遣されるのだとすれば、ある程度だが話の辻褄が通る。
まぁ、仮にそうだとしても、紅夜叉会からの指示にそれが記載されてないなら、僕がそれを考えるべきじゃない。
恐らくギュールなら、僕らに知らされない事情も把握してるだろうから、今回は、彼の指示に従って動く事に専念しよう。
ただ、紅夜叉会やギュールの指示に盲目的に従うだけでは、不測の事態があった時、切り捨てられてしまうかもしれないけれども。
所属する組織を必要以上に疑ってる訳じゃないけれど、生きる為に頼れるのは己だけである事を、僕は決して忘れちゃならない。
次の更新予定
21XX・僕が選び生きる道 らる鳥 @rarutori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。21XX・僕が選び生きる道の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます