第244話 その後

〈セラフ視点〉


 湖での一件の後、僕達は王都へとお忍びで向かい、マシュお姉ちゃんの眷属化を解き、王都の地下にある核に僕は付与魔法と僕の血をかけた。


 人々の不安を煽っていた度重なる地震は止み、平穏が訪れる。人々は元々家やお店であった瓦礫を除去し、それぞれが手を取り合って復興に勤しんでいる。


 ハッキリ言って、問題は山積みだ。


 国家間の情勢は、未だに緊張状態にあると言って良い。この復興期間中に攻め入る国もあるのではないかと心配していたが、この世界大戦での消耗や戦力が削れたこと、またジャンヌやマルクの強さが各国の将軍クラスの武人達に知れ渡り、それぞれの国内で大臣らがシュマールに攻め入るべきだと主張しても彼等がそうすべきでないと説得しているようだった。


 また冒険者達に関しては、Aランク冒険者のミルトンさんによって、今回の冒険者の一連の暴徒化はギルドマスターのガーランド・ビスマルクによる陰謀であるとの報告がなされた。そして彼を討伐したことにより、冒険者は支配から解放されたと明言される。しかし冒険者の中にはいくら自分が支配されたからといって、誰かを傷付け、罪もない人を殺してしまったことに悩み、冒険者を引退する者もいた。現在ではミルトンさんがギルドマスターとして、冒険者ギルドを運営、いや、再建している。

 

 シュマール王国は、大戦による傷跡と冒険者の暴動によってガタガタであったが、マシュお姉ちゃんの眷属化が解けたこともあり、インゴベル陛下は正気を取り戻し、親子揃って復興に勤しんでいる。


 それに伴って僕は、やはり死んだことになった。


 僕が死んだことでお姉ちゃんは眷属化が解かれ、インゴベル陛下は正常に戻る。その方が多くの人の救いになると思ったからだ。


 しかしその嘘が僕の村に届くと、悲しみに包まれた。


 ヌーナン村の人達は悲しみに暮れ、僕が治療した人達や元欠損奴隷の人達はむせび泣いたという。


 僕が生きていると知っている人は家族以外ではメイナーさんとスミスさん、マシュお姉ちゃんとファーディナンドさんだけだ。彼等にヌーナン村の運営や僕の信者達を任せて、いや、押し付けてしまった。けれど彼等は喜んでそれらを引き受けてくれた。『黒い仔豚亭』も僕らは手放し、メイナーさんが引き継いでくれる。


 そして僕らは……


「シュウサク~?起きたら早く手伝いなさ~い!」


「は~い!」


 僕は2階の廊下を走り、階段を目指す。


 吹き抜けとなっている為、1階で床を磨いている母さんが見えた。


 階段へ到着し、駆け下りようとすると階段を掃いていたアビゲイルが僕に不平を漏らした。


「ちょっと!掃いたばかりなんだからドタドタしないの!」


「はいは~い!」


 僕はいつもの調子で階段を飛び降りる。後ろでアビゲイルの「もう!」という呆れた声が聞こえた。


 着地を決めた僕に、今度はこの新しい宿屋の主人デイヴィッドさんが厨房から僕に銀貨と銅貨の入った麻袋を投げた。


「いつもの頼んだぞ、シュウサク」


「了解!」


 デイヴィッドさんの後ろでは、最近厨房に入ったマルクがフライパンを振っていて、僕に挨拶をしていた。


「おはようございます、シュウサク!」


 僕は投げられた麻袋に焦点を絞りながらマルクに返事をした。


「おはよ~!」


 宙を舞う麻袋キャッチしようとするが、上手くそれを掴むことができなかった。


「あ!」

「あっ……」


 アビゲイルとデイヴィッドさんは僕の取り損ねた麻袋の行方を心配した表情で見つめる。しかし麻袋は近くにいたソロモンお兄ちゃんが見事キャッチして事なきを得た。


「助かった~!」


 僕はそう言うとソロモンお兄ちゃんが僕の頭に手を置いて言った。


「次からは気を付けるんだよ?」


「は~い!」


 するとアビゲイルが言う。


「もう!お兄ちゃん、シュウサクを甘やかしすぎ!」


 すると今度はローラさんがやって来て、僕らに告げた。


「なんだい、朝っぱらから騒々しい」


 アビゲイルが言った。


「だってセラフが──」


「行ってきま~す!」


「あ!コラ、逃げるな~!!」


 母さんも言う。


「走らないの!」


 僕はそんな2人の言葉を無視して、裏口から宿屋の外へと出ていった。裏庭にいるオーマに挨拶をしつつ、急いで買い出しに行こうとするも僕はつまずき、前のめりとなって転びそうになった。迫る大地に顔を打たないよう両手でガードしながら倒れ込む。


「うわぁぁぁぁ!!」


 しかしいつまで経っても地面とぶつからない。


 僕の前のめりとなった両足は膝ぐらいまで大地で覆われ、僕が倒れないように支えられていた。その上、上半身には僕の体重を支える程の向かい風が吹いている。


「シュウサクちゃん!大丈夫?」

「大丈夫ですか?シュウサク?」


 リュカとジャンヌが僕が転ばないように、それぞれの魔法で支えてくれていたのだ。彼女達は狩りを終えて獲物を両手一杯に握っていた。僕はそんな2人にお礼を言う。


「うん!2人ともありがとう!」


 僕は颯爽といつもの買い出しに出掛けていった。


                ──了──





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宿屋無双~転生して付与魔法に目覚めた僕は神の御使いとして崇められてしまう~ 中島健一 @nakashimakenichi

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