ドアノブフェチとの同居生活

沼津平成

本編

ノブフェチ_出会い(1)

 いま、公園で語りをしている。

 ドアノブフェチと出会ったのは数日前のことである。

 冒頭からこんな文章で済まないと思っている。

 しかしドアノブフェチは実在したのである。

 玄関を開けると涼しい空気が肌にまとわりついてきた。朝だ。体に喜びを感じた。

 ニヤリとしながらコンビニへ向かう。

 コンビニに、その男はいた。

 黒い服の男であった。

 細身でイケメンで、埋もれていそうな男だ。取り柄は……性格あたりだろうか。ああいう輩は7割の確率でやさしい。

 似合う職業は、——ええと——それこそコンビニ店員にいそうだった。

 

 この話において、一人称は「僕」にしようと思う。理由——。強いていえば、自分の一人称が「僕」だからである。


 僕はなぜか気になって、声をかけた。平凡なこの男に、平凡でない何かが見られたからだと、そう思った。

(そして、これが正しかったのか? その答えにのちのち気づくことになる)


「あの」

「なんですか」男は眉根を寄せた。まあそりゃそうだろう。声をかけたのは僕の方だ。適当な嘘をついて、切り上げてみよう。

「食い扶持ぶちってあるのですか」

 男はさらに困ったふうだった。「……ないですけど」

 ドンピシャだった。僕は食い扶持をあげましょうといった。そして、ついてきてください、と続けた。 

 僕の家を見た男から、喉をついて言葉が出てくる。


「書生になっていいですか」


 つまり同棲ということか!

 いいですとも、と僕は頷いた。そして男に家の鍵を渡した。

 男は驚いたような顔をしたが、照れたように会釈のポーズ(どうも)をすると、鍵を持って、家に入り込んでいく——。

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